親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
29 / 88
4章【親友の弟の目的は、】

4

しおりを挟む



 頭も体も顔も洗った後。お湯に浸かりながら、ぼんやりと考える。

 ──今さら気付いたが、冬人と普通に話せたな。

 久し振りの休日で、気持ちが舞い上がっていたのかもしれない。冬人が来た初日とは違って、普通に話せたのだ。
 ……イヤ、違うか。変な気を回せるほど、心に余裕が無かったのかもしれないな。

 でも、これはこれでむしろ、ありがたい。
 湯船に肩まで浸かり、大きく伸びをして安堵の息を漏らす。

 龍介の部屋から出た後。スーパーで買い物をしている時だって、不安はあった。冬人と上手く話せる自信が、全く無かったからだ。
 だが、いざ会ってみたらどうだろう。驚くほど普通に話せたじゃないか。

 ……それに。

 ──笑顔が、見られた。

 年相応な笑顔を、今なら直視できるのだろうか。……いや、ムリそうだ。

 冬人だって、俺や冬樹と同じ、人間。笑うくらい、当たり前なのは分かっている。
 だけど、俺が知っている冬人は【笑顔】とは縁遠い。不機嫌そうな顔か、難しそうな顔をしてばっかりだ。

 そんな冬人の笑顔は、貴重な気がする。……それとも、意外と冬人は表情を崩すのか?
 まだあまり冬人と関われていないから、普段がどうなのかは分からない。だが、それでもヤッパリ貴重な気がする。

 それに、冬樹と同じく──冬樹以上に、冬人はキレイな顔立ちだ。
 そのせいか、笑うとどことなく……可愛い、気もする。

 そして、これは確実な自惚れなのだが……笑みを向けてくれるくらいには、俺に気を許してくれたのかもしれない。

 ……今日なら、訊ける気がする。

 ──冬人が、冬樹の代役を承諾した理由。

 ──どうして、事務所に所属しようとしたのか、ということが。

 目を閉じて、心の中で呟く。

 ──冬樹、安心してくれ。

 ──ちゃんと俺が、冬人の面倒を見るからな。


 * * *


「おぉ~っ!」


 風呂から出てすぐに、俺は感嘆の声を漏らした。
 リビングに置いてある、四人掛けのテーブル。その上に冬人が、シチューを並べているところだったからだ。

 皿は、ふたつ。どうやら、俺の分も用意してくれたらしい。
 モチロン、表面は炙られていない。オリーブオイルの空きビンも、見当たらなかった。このシチューには、オリーブオイルが一本まるまるかかっていなさそうだ。

 たったそれだけのことなのに思わず感動してしまうくらいには、俺の中で冬樹のインパクトはデカかったらしい。


「口に合うかは分からないが、作った。迷惑ではないのなら、食べてくれ」


 風呂上がりの俺に気付き、冬人がそう言う。
 俺の分も用意してあるところを見ると、冬人も冬人なりに俺との共同生活を考えてくれているんだろう。

 さっきのまな板騒動のおかげか、最初の頃に感じていた警戒心を、今は冬人から感じない。そういった思いも込みで、なおさら感動してしまった。

 突然、軽快な音が鳴る。電子レンジの音だ。
 なにかを温めていたらしい冬人は、電子レンジの中から皿を取り出した。……それは、さっき見た唐揚げだ。


「本当は揚げ直したかったが、時間が無かったから」


 淡々と説明し、テーブルの上に皿を置いた。

 皿は、ひとつ。
 今の説明から察するに、もしかして……?


「その唐揚げって、俺の分か?」


 皿を指さすと、冬人は小さく頷いた。

 ──そして、驚きの言葉を口にする。


「──毎日二人分の料理を作っていたが、平兵衛さんは私が思っていた以上に多忙だな」


 冬人はそう言いながら、冷蔵庫からわざわざ缶ビールを一本持って来た。
 それを俺の前に置くと、冬人は俺の正面に……。
 ……なに?

 ──今、冬人はなんだって? 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

イージーモードな俺の人生を狂わせたアイツ

世咲
BL
ノンケのイケメン大学生が恋する乙女になるまで。 執着系社会人×イケメン大学生

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

処理中です...