24 / 88
3章【親友の弟と同居を始めて、】
8
しおりを挟むせっせと掃除を始めた俺を見て、龍介はイスの上からぼやく。
「えっ、なにっ? アポもなしに押しかけて来たと思ったら、わざわざ掃除しに来たのかよ? ハァ? 俳優サマってのはヒマなのかァ?」
そう言い、龍介はイスに座ったままクルクルと回り始める。その口から放たれるのは、妙に嫌味っぽい言い方だ。
おそらく『気に食わない』とまでは思っていないだろう。ただ純粋に、心から理解できないだけ。
「世話を焼く相手がいなくなったからって、ボクに鞍替えってことかァ? それって、正直どうよォ?」
冬樹のことだろう。
当然、龍介は悪意を持って言っているワケではない。本気でそう思ったから、言葉にしただけだ。龍介の性格は分かっているので、特段気にしない。そして当然、傷つきもしなかった。
「別に。そんなんじゃねぇよ」
空き缶をまとめた後、次は燃えるゴミに区分される物を拾い始める。
「──葬式の時の礼、まだしてなかっただろ」
そんな言葉を添えて。
……しまった。思わず、暗い声になってしまったらしい。
「平兵衛、お前……ッ」
冬樹の死に関することを口に出すのは、少しだけ抵抗がある。それは、約一ヶ月経っても、変わっていない。
龍介も回転させていたイスを止めて、声を暗くした。
……ヤバい。さすがに、空気を重くしちまったか?
先に話を振ってきたのは龍介だが、やはりナイーブな話だっただろう。もしかすると、踏み込んではいけない話題だったかもしれない。……もしくは、龍介に変な心配をさせたかも。
そう心配した矢先……。
「──ぶぁ~かッ! ハァッ? こんなので礼のつもりかァ? 冗談にしてはちィっともッ! カケラもッ! 面白くねェぞ、平兵衛ッ!」
俺の奉仕に、カケラも感謝した様子はない。むしろ、俺に向かって中指を立ててきている始末だ。
……イヤ、オイ! さっきの暗い声はなんだったんだ!
「締切を延ばすとか、そォいう? ボクの心身が満たされるようなことすれよなァ! 部屋の掃除なんて頼んでねェし、却下だ、却下ッ!」
またもやクルクルとイスを回転させながら、龍介は失礼極まりない発言を繰り返す。
「あっ、でも。そのまま掃除はしろよな。勝手にボクの家に上がり込んでんだから、それくらいの誠意を見せるのは当然だよなァ? ……なァ、平兵衛!」
……困ったぞ。龍介に対する感謝の気持ちが、跡形もなく失せそうだ。
ひとしきり回り終わった後、龍介は作業机に向き合った。……あっ、コイツ! もう俺への関心はなくなったのかよ!
……というツッコミは、無粋なので口にはしない。俺は黙々と、部屋の掃除を続行。
すると、突然。
「──締切に余裕ができたら、礼、してもらうわ」
さっきまでの煽るような言い方ではなく、至極真剣な声で、龍介はそう言った。
話は終わりだと言いたげに、龍介はパソコンを見ながら絵を描き始める。
どうやら、今回はいつも以上に進捗状況に余裕がなかったようだ。俺を部屋に入れた瞬間は余裕がありそうに見えたんだが、気のせいだったらしい。
液晶タブレット? とかいう道具を使いながら、龍介は絵を描く。
しばらく、俺の持っている袋の擦れ合う音と、龍介がペンで液晶画面をなぞる音だけが、部屋に響いた。
……そんな中、先に言葉を発したのは、俺だ。
「そうだ、龍介。……俺さ、冬樹の弟と同居し始めたから」
「……ハァッ?」
龍介の手が、ピタリと止まった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる