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3章【親友の弟と同居を始めて、】
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しおりを挟む仕事現場から、目的地へ向かった後。
「──ハァ? 平兵衛、いきなりなんだよ?」
目当ての人物は俺の顔を見て早々、俺をギロリと睨んできた。
【目当ての人物】こと龍介が住んでいるのは、俺の住んでいるマンションから一駅離れた場所にあるアパートだ。
俺はテレビ局から出た後、龍介の住んでいるアパートに向かうべく、電車に乗った。
そしてインターホンを鳴らしてみれば、目当ての家主はこの反応だ。
カギを開けて、玄関の扉を開いた龍介の表情は、どこまでも辛辣。……台本に【両親の仇を睨みつける】と書いてあったら、俺がするであろう表情とも言う。龍介の表情は、まさにそんな例えそのものだった。
ちなみにこれは圧倒的な余談だが、龍介は漫画家だ。いつも締切に追われているのか、目の下には深いクマがある。
子供の頃から目付きが悪く、そもそも瞳に輝きが無い。ついでに言うと冬樹の葬式の時は真っ直ぐ立っていたが、普段は猫背だ。
つまり、龍介は生まれ持った顔が【両親の仇を睨みつける】の再現だ、ということである。憎たらしい相手でも見ているような顔だが、これがいつもの龍介なので、俺はいちいち話題として触れない。
不機嫌そうな物言いも、実際に不愉快そうである声の響きでも、気にしないのだ。
……これが、水野龍介という男なのだから。
「久し振りだな、龍介。それじゃ、邪魔するぞ」
「ハァ? なんなんですかねェ、いきなり!」
龍介が開けた玄関を、俺が通れるくらいにまでムリヤリこじ開ける。
俺は勝手に玄関で靴を脱いで、部屋に入った。
念のため言っておくと、敬語を付けてくるあたり本気でイヤがっている様子ではない。まだ、余裕がある状態の龍介だ。
龍介が作業をしている部屋に入り、俺は思わずたじろぐ。
「うわっ」
──しまった、声にも出しちまった。
龍介の部屋は、冬樹とは別種の【汚部屋】だ。
冬樹は物の整理ができないタイプだが、龍介は違う。
龍介の場合は、ゴミとかをそのまま床に置いて重ねていく怠け者タイプ。
同じく【汚い部屋】ではあるのだが、内容が違うのだ。
「勝手に来たクセに、なんで勝手に引くわけ? べっつに、ボクがどんな部屋に住んでようが、平兵衛には関係無いだろォが」
龍介はそう言って、床にあった空き缶を蹴り飛ばした。……って、イヤイヤ。なんで部屋で缶蹴りできる状態なんだよ、マジで。
「今すぐ掃除しろ! それか、サッサと家政婦の一人でも雇え!」
「ハァッ?」
条件反射のように空き缶を拾いながら、龍介の部屋の片付けを始める。
ゴミを拾いつつ、俺は部屋の主に苦言を呈した。
足の踏み場もないほどの、汚れっぷり。……だが、たった一ヶ所だけは違う。
まるで聖域のように、作業机とその周りだけはキレイにしてあるのだ。
まぁ、これは努力によるキレイさではない。おそらく、ゴミを作業机から後方に放っているだけだ。感心してはいけない。
龍介はイスに座って、俺を振り返る。
不満そうな表情を浮かべ、不愉快そうな声を漏らしながら。
「意外かもしれないけど、ボクはさァ? 平兵衛以外の奴と一緒の空間にいるとか、三分でもキツイんですけどォ?」
「知るか! 胸張るな! この汚部屋をどうにかできるようにしてから、その偉そうな態度を取れ!」
「汚部屋だとォ! やんのか平兵衛ッ!」
……ちなみに。こんな感じのやり取りは、龍介の部屋に来たら毎回やっている。
冬樹という別種の汚部屋を持った奴と暮らしていたせいか、軽い掃除をするのはなんとも思わない。
……けど、人としてこれじゃあダメだろう! せめて、床に転がっているゴミくらいは気にしてくれ!
……と、文句は山のように出てくる。
しかし、俺は知っていた。『龍介に文句を言ったところで、時間のムダだ』ということを。
とっくの昔にそう分かりきっているからこそ、全ては伝えない。
俺は龍介の部屋に置いてあるゴミ袋を引っ張り出して、勝手に掃除を始めた。
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