親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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3章【親友の弟と同居を始めて、】

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 そういうことなら、抵抗が全くない。
 ……というわけでもないが、断るのはなんだか、可哀想な気もする。

 冬人君はもう、冬樹との思い出が増えない。ならばせめて、俺が知っていて家族が知らない冬樹の話をするのも、大事なことなのだろう。

 それに、冬人君も冬人君なりの考えがあって、こんなこと言っているに違いない。見ず知らずの人と一緒に暮らすなんて極論は、かなり勇気の要る話なはずだ。

 どことなく釈然としないが、俺の返答はひとつ。


「分かった、いいぞ」
「っ!」


 さっき頷いてから、冬人君はそのまま俯いていた。
 しかし、俺の返事を聞いた冬人君は、勢い良く顔を上げる。額には、ほんの少し汗をかいているようだ。

 ……緊張、したんだろうか?
 撮影現場でさえ緊張した様子を見せなかったのに、なんだか不思議だな。


「よしっ。……とりあえず、先ずは郵便局か。どこの郵便局だ?」
「は?」


 冬人君は、訝し気な目で俺を見てきた。
 ……イヤ、なんでだよ。その反応は違うだろうが。


「『必要最低限の物は郵便局に留めてある』って言ってただろ? じゃあ先ずは、それがないと生活できないだろ? だから、今から荷物を取りに行くぞ」


 俺の言葉を聞いても、冬人君の目つきは変わらない。


「マンションの住所は以前、兄から聞いている。だから、私は一人でも火乃宮さんが住むマンションへ行ける。……と、思うのだが」


 つまり、一緒に行動する意味が分からない。……って、ことを言いたいんだろうな、たぶん。

 訝しみ、要領を得ないといった顔。困惑する冬人君を見て、俺は思わず笑ってしまう。


「ははっ! なに言ってるんだよ。最終的な目的地は同じマンションなんだから、一緒に行動すりゃいいだろ」
「迷惑は、かけられない」
「いきなり『同居してほしい』って頼んできたのにか? 変な奴だなっ」


 後ろをついて歩いていた冬人君の隣に、並んで立つ。


「俺たちは、これから一緒に生活するんだろ? なら、もう少しお互いのことを知ろうぜ。だから、俺たちは今から身の上話とかをして、歩く。それなら、俺の迷惑じゃない。理にかなっている。……違うか?」


 一緒に暮らすのは、若干早計な気もする。
 だが、相手は冬樹の弟君だ。それなら大丈夫だろう。奇妙且つ変な信頼感が、冬人君にはある。

 ……そもそも、あのとんでも人間冬樹と一緒に暮らせたという実績が、俺にはあるんだ。常識人っぽい冬人君と暮らす方が、難易度はイージーな気もする。
 ならもう、深く考えなくたっていいか。

 ──どうせだったら、冬樹の代わりに面倒を見てやろう。

 ──ついでに、気になっていることも訊けばいい。

 そんな軽い気持ちで、俺は冬人君に笑みを向けた。


「すみません。お手数をおかけします」
「そんなにかしこまんなくていいっつーの! ホラ、行くぞ?」


 小さく頭を下げた冬人君の背中を一度、ポンと叩く。

 それから、すぐ。
 冬人君から目当ての郵便局を教えてもらい、俺たちはその郵便局に向かって、歩き出した。 




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