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2章【親友の弟と再会して、】
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しおりを挟む冬人君は俺から視線を外すと、もう一度監督を見た。
「完成のイメージは分かりました。貴重な時間を割いて頂き、ありがとうございます」
冬人君は小さく、監督に頭を下げる。
頭を上げた後、少し離れたところにあるイスへ向かい、その上に座った。
イスの上にはカバンがひとつ、置いてある。たぶんそのカバンは、冬人君の物なんだろう。イスに座る前、迷うことなく抱え上げたのだから。
冬人君はカバンの中から今日の台本を取り出して、目を通している。おそらく、オファーされた時にでも渡されていたんだろうな。
……それにしても、死んだ兄貴の代役か。
俺は今日の撮影の内容を、前から聞いていた。だからこそ、全容を分かっている俺に代役が回ってきてもおかしくないと。そう、本気で思っていたんだが。
選ばれたのは、弟である冬人君だ。
──いったい、どんな気持ちでここに居るんだろう。
冬人君は眉間にシワを作って、不機嫌そうな顔をして台本を見ている。
マネージャーの話が本当なら、この場にいるのは冬人君の意思。死んだ兄貴の代役なんかを即オーケーするなんて、どういう心境だ?
今から俺は、冬人君と同じ現場で働く。それなのに、相手の気持ちがまるで分からない。
不可解な気持ちを抱いてはいるが、悩んでいたって仕方ないだろう。
俺も冬人君に続き、監督と今日の撮影の話をした。
* * *
今日の仕事は、短いドラマの撮影。
バラエティ番組に送られた【視聴者の実話】を基にした、よくある再現ⅤTRの撮影だ。
その番組はテーマを決めて視聴者から実話を募集し、面白かったり映像にし甲斐のある内容だったら、再現映像を撮る。
そして、その再現映像を番組に出演している芸能人が見て、話題を広げる。……これから撮影する映像の使われ方は、そういう感じだ。
そして今回、再現VTRを撮るのが俺と冬樹──の代役である、冬人君の役目。
俺は最終確認も兼ねて開いていた台本を、パタンと閉じる。
監督と完成イメージの話し合いを終わらせた後、冬人君の隣に座ってみるも、会話は無し。
時間になるまでただ台本を読んだり、撮影の準備をしているスタッフを眺めたりしていただけ。
そんなに長い時間は経っていないのに、なんだか息苦しい。
……だが、それもそうかもしれない。
「…………」
黙って隣に座っている、冬樹によく似た男。そんな相手がすぐ近くに居るのに、会話すらできていないこの状況。
──冬樹じゃないのは、分かっている。
それでも、複雑な気持ちになってしまう。
……ダメだな。『別人だと分かっている』とか言いながら、イヤに感傷的じゃないか。
チラッと、もう一度だけ冬人君を見る。
顔の造形は、ヤッパリ冬樹に似ているな。違いと言えば、眉間のシワと目付きか? 鼻の形とか、唇の形も似ているし。他に目立つ違いは、そうだな……?
そこで、ついに。
──冬人君を見た時の、違和感。
──その正体に、気付いた。
思わず『そうだ、分かったぞ!』と言いそうになるが、なんとか言葉を飲み込む。
──そうか!
──【前髪】だ!
前髪の分け目が【同じになっている】こと。
それが、冬人君に抱いた【違和感】の正体だった。
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