親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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2章【親友の弟と再会して、】

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 現場へ着くや否や。


「火乃宮、早かったな! ……それと、久し振り!」
「マネージャー、お久し振りです」


 ついさっきまで電話していた相手──マネージャーが、俺を見付けた。

 元気そうに手を振り、挨拶まで送ってくれる。返事をしつつ、俺は落ち着きなく、周りを見回す。
 挙動不審にも思える俺の様子を見て、マネージャーは小首を傾げていた。


「どうした、火乃宮? なんか探してるのか?」


 ──バカか。

 ──ひとつしかねぇだろ。

 はやる気持ちを抑えつつ、マネージャーを振り返る。


「冬樹の、代役。冬樹の弟君は、もう来てるんですか?」
「あ~、あのボウズか。とっくに来てるっつの。あっちで、監督と話してる男がいるだろ? あれだ」


 マネージャーがすぐさま、ある一点を指さす。
 指し示された方向を見ると、マネージャーの言う通り冬樹によく似た人物が、立っていた。

 眉間にシワを寄せながら、今日の現場監督と話している、一人の男。

 ──間違いない。

 ──冬樹の、弟君だ。

 見つかったことに安堵しつつ、近寄ろうとした。
 そこで、ほんの僅か一瞬……なぜだか妙に、胸がザワついた。

 冬樹の弟君と会ったのは、冬樹の葬式で一回だけ。それなのに、なぜだろう。

 ──葬儀場で会った時と、違和感がある。

 あの時……眉間にシワを刻んでいなかったのは分かるが、そこじゃない。
 もっと、こう。
 大きくて小さな【なにか】が、違う。


「オイ、火乃宮」
「えっ。……あ、はい?」


 間違い探しをするように弟君を眺めていた俺に、マネージャーが声をかける。
 俺はハッとし、慌ててマネージャーを振り返った。


「お前にとって、久し振りの仕事だ。だが、ブランク云々なんていう泣き言や逃げ道や弱音を言わせるつもりはない。月島兄の件は分かるが、それでも月島の弟からしたらお前は【先輩】だ。……無様な姿は見せるなよ」


 せん、ぱい? 俺が?
 ……そう、か。今日は弟君と、一緒の撮影だ。


「はい。モチロンです」


 マネージャーに向かい、力強く頷く。

 一度、マネージャーに頭を下げる。その後すぐ、俺は弟君と話している現場監督がいる方へ向かった。


「お疲れ様です」
「あぁ、火乃宮さん。お疲れ様です」


 監督が俺の挨拶に気付き、笑顔で返事をする。

 今日の監督は、業界でも優しいと評判の温厚な人だ。弟君は全くの初心者だが、この人ならそこまで難癖をつけないだろう。
 俺は静かに安堵し、弟君を見た。


「火乃宮平兵衛だ。今日はよろしく」


 弟君に向かって手を差し出すと、弟君は小さく会釈をした。


「月島冬人ふゆと。よろしくお願いします」


 それだけ言うが、ニコリとも笑わない。オマケに、俺の手も握り返さなかった。

 ……葬儀場で見た時は、どうして冬樹と間違えたのか。思わずそう不思議になるくらい、弟君──冬人君の雰囲気は、冬樹と全然違う。

 見た目は似ているが、冬樹は明るい雰囲気だった。
 だが冬人君は、暗い。言ってしまえば、むしろ真逆なオーラだった。

 ……緊張している、というのも理由だろうか? それも、仕方ないよな。
 撮影経験なんてなかった人間が、いきなりテレビ用の撮影をするんだ。緊張して、当たり前だろう。

 俺は行き場のなくなった手を引っ込め、すぐさま冬人君に声をかけ直す。


「今日は一緒の撮影だから、困ったこととか分からないことがあったら、なんでも言ってくれ」
「はい」


 ……それ、だけか。冬樹と違って、会話が続かないな。

 イヤ、俺の話題チョイスが悪いのか? ほぼ初対面だというのに、馴れ馴れしいかもしれない。そもそも初めて会った時なんて、冬樹と間違えたし……。
 そう思うと、冬人君が素っ気無い理由も予想がつく。

 ただ純粋に、俺への印象が最悪なだけかもしれないよな。……もしもそうなら、自業自得とは言え少し凹むが。 




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