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1章【親友の弟と初めて会って、】

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 龍介は、俺を強く睨み付けている。

 そうしながらも、俺を落ち着かせようとしているのだろう。なにかを押し殺したような声で、俺に【現実】を教えてきたのだから。


「お、とう、と……ッ?」


 頭が、龍介の言葉を理解するということを、拒んだ。
 けれど、どこか冷静な部分が残っていたのだろう。

 視線が、龍介から外される。そのまま、目の前で黙って俺に抱き締められている男を、見た。

 青年はほんの少しだけ、目を丸くしている。……しかし、なにも言ってこない。
 目だけで『状況を理解できていない』と、俺に訴えてきているのだ。

 その青年は、冬樹──に、よく似た顔をしていた。

 ──龍介は今、なんて言った?

 ──『弟』って、言ったのか?

 そこで不意に、冬樹の話を思い出した。


『オレの弟、オレに似てマジで美形なんだぜ! ニコリともピクリとも笑わねぇんだけど、そんなクールなところも兄のオレとそっくりなんだよな!』


 そう言えば、冬樹には【冬樹によく似た弟がいる】らしい。
 それじゃあ。

 ……つまり?


「…………お、れ……ッ」


 頭が真っ白になり、フリーズしかける。
 俺の肩を、龍介がもう一度引っ張った。

 龍介の握力で。
 そして、微かに走った痛みに。

 ──俺はようやく、事態を理解した。

 弾かれたように、冬樹の弟と思われる人物を、腕から解放する。


「す、すまんッ! イヤ、違う! すみませんでしたッ!」


 泣き腫らした目をしている親御さんも、驚いたような顔で俺を見ていた。
 ついさっきまで『親御さんに一言挨拶をしなくては』と、思っていたはずだったのに。

 ──俺は、とんでもないことをしでかしてしまったのだ。

 冷静に考えれば、すぐに分かることだった。冬樹は、死んだんだって。
 俺はそう、理解していたはずだったのに……ッ。


「その、俺──」


 言い訳にしかならないとしても、なにか言わなくては。焦る俺と冬樹の家族との間に、龍介がそっと、割って入った。


「スミマセン。この人、冬樹サンの同居人で【火乃宮平兵衛】って言います。ボクは、火乃宮の友人です。火乃宮、冬樹サンが死んでショックが大きくて、まだ理解しきれてないみたいなんです。……動揺して、ご迷惑をおかけしてしまいました。ホント、スミマセン」


 言葉が出てこない中、ムリヤリなにかを絞り出そうとする俺よりも、よっぽど有益で有用。俺の声を遮った龍介が、代わって弁明をしてくれた。

 ──サイアクだ。

 ──やっちまった。

 よりにもよって、遺族の方に迷惑をかけちまうなんて。
 サイアクで、サイテーで。

 ──してはいけないことを、してしまった。

 しかも、ただ迷惑をかけただけではない。

 ──俺がしでかしたのは【死んだ冬樹のことを強引に掘り返すようなマネ】だ。

 不謹慎、極まりない。どう考えたって、あり得ないだろう。

 冬樹が言っていた通り、弟君はパッと見、冬樹に似ている。
 ……だが、よく見ると違う。

 冬樹の目は、温かい印象を与える。
 だが、弟君は冬樹と違った。どちらかと言うのなら、冷たい印象だろう。
 身長も、冬樹に比べたら少し低い。

 髪型だってそうだ。前髪が目を隠しているのは、同じ。だが、分け目が逆。冬樹は前髪を右に分けていたが、弟君は左に分けているのだ。 




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