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オマケSS②【[童話]三匹の子豚】

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 横になっていた俺は、意気揚々と語り続ける人相手に、堪らず声を掛けた。


「……あの、すみません、井合課長」


 ここは、会社の仮眠室。俺は昼休みの全時間を仮眠に使おうと思っていたのだが、思わぬ邪魔が入ったのだ。

 仮眠の妨害をしている張本人が、怪訝そうに眉を寄せる。


「ん? どうした、クソ童貞? 気にせず寝るといい!」


 同じ課の上司──井合課長だ。

 仮眠室に向かっている途中で目を付けられて、トコトコついて来たかと思えば……衝撃の提案を投げつけられた。


『──寝る前に、俺様が即興で童話を聞かせてやろう!』


 そして、今に至る。

 本当に……本ッ当に! 俺はこんな波乱万丈な寝物語、頼んでなんかいないッ! 寝る時は静かにしていただきたいのが本心だ。


「いえ、その……非常に申し上げにくいのですが……。……眠れま、せん」


 俺のそばでちょこんと正座している井合課長は、満足そうに笑う。


「ハーッハッハッハ! まさか、続きが気になって眠れないのか? 恵まれた容姿に天才的な頭脳、果てには童話を即興で考えるセンスまで備わっているとは……天は二物も三物も逸物も与えるんだな!」


 ──最低。

 三匹の子豚なんて可愛い題材を用意したかと思えば、内容は実に井合課長らしい。
 自画自賛は散りばめるし、増江課長のことは貶しているし、俺に対しても失礼な注釈を入れている。……不毛でしかない。


「ん? どうした? 寝ずに起きるのか?」
「もう昼休みが終わりそうなので……」


 上体を起こした俺に、井合課長は不服そうな顔を向ける。


「なんだと! 言っておくが、ここからはさらに面白くなるぞ? 【第五章・失われたシュンタの記憶】からは森の住人を巻き込んだドタバタシリアス展開になってだな?」
「即興の域を超えていませんか」


 仮眠室から二人で出て行き、俺たちが所属している企画開発課の事務所へ向かって歩き出す。
 だが、井合課長の話は止まらない。小さな歩幅に合わせ、うんざりした顔と声で応対するも……内心、俺は浮かれていた。

 ──井合課長の考える物語に、俺が登場しているという事実が……なぜだか、異様に嬉しい。

 だから、ほんの少しだけ踏み込んでみたくなった。


「──じゃあ……明日の昼休みも、聞かせてください」


 自分の感情を制御することすらままならないなんて、余裕が無いみたいで恥ずかしい。

 ──けれど、俺は器用じゃないから。……だから、こんな距離の詰め方しかできないのだ。

 俺の提案に、井合課長は目を丸くする。


「それは……明日も俺様と一緒に昼休みを過ごしたい、と? そういう意味か?」


 いつもは茶化されるか誤魔化されるのに、今日はやけにストレートな反応だ。


「そう言っているつもりですが」


 自分から踏み込んだくせに、途中で怖気づくのがまた情けない。
 しかし、俺の肯定に。

 ──井合課長は、笑顔で答える。


「──俺様はそこまで暇じゃない! だからパス!」


 ──本当に、ままならねぇッ!

 自称『暇じゃない』井合課長は陽気に笑うと、そのままズンズンと歩き始めてしまった。
 ……だったら、仮眠の妨害なんてしてくるなよ!

 ──これはまだ、小さな王様から『商品開発案を出せ』という王命が下される……少し前の話だ。




オマケSS②【[童話]三匹の子豚】 了




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