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オマケSS②【[童話]三匹の子豚】
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しおりを挟む三兄弟はまず、家の建設を始めました。
「セオリー通りにいくなら、藁の家だろう!」
「比較的低コスト且つ省エネルギーで建てられるしな!」
「抜かりもなく、材料も既に用意済みだ!」
森でかき集めた藁を組み立て、寝所として雨風を凌げる程度の家を建てます。セキュリティ面では不安しかありません。
……が、三匹は『狙い澄ましたかのように狼が来るはずないだろう』と、たかをくくったのです。
手早く藁の家を完成させ、今度は食糧になりそうな物を調達しようと話し合い、再度、出掛けることにしました。
「よし、カチョウ! 一番年下設定なんだから、お前がここを見張っていろ!」
「俺様たちは食糧を調達してくる! 今晩はご馳走確約だ!」
「分かった! 俺様は兄さんたちを信じているぞ!」
イアイとシュンタが森に出掛けたのを見送り、カチョウは家の周りに生えていた草をむしり始めます。
可愛くて聡明なだけではなく、清掃意識も持っているなんて……っ。立派すぎますね。
「この草は、使えないか。……おぉ、この草は食えるな! そしてこっちの草は……?」
むしった後の草も、決して無駄にはしない。立派すぎてお涙頂戴レベルの子豚です。
初めは家の前だけのつもりでしたが、黙々と草むしりを続けていくと、清掃範囲は広がっていきます。
気付けば、藁の家からどんどん離れていき……。
──そこを、狼に狙われました。
「あんなに可愛い子豚たちが、こんな家で狼から身を守れるはずがない……。どうにかして気付かせなくては」
童貞感たっぷりの狼は親切心から【狼が来ましたよ】と分かる様に、藁の家をメチャクチャに荒らし始めます。
……息で吹き飛ばすのがセオリーかもしれませんが、普通に考えて非現実的です。現実的且つ知的に、物事は進めましょう。
……さて、そんなこんなで藁の家はメチャクチャです。
そこへ、朝露のように可憐なカチョウが戻ってきました。
「ふぅっ。途中から素数を数え始めてしまった。いやはや、理系の悪い癖だな!」
無邪気なカチョウは実用的な草を両手いっぱいに抱えながら、上機嫌で藁の家を目指します。
──けれど、現実は非道です。
「なッ、なんだこの有り様はッ!」
狼の襲撃を受けた藁の家は、藁の塊に成り果てていたのでした。
「なんか、なんだ……! 几帳面な奴が『荒らすと言えばこんな感じ?』と手探りで荒らしたかのような、荒れてはいるのだが妙に小綺麗な、この有り様はッ!」
メチャクチャに荒らされてはいるし、現に家としての形は失っているのですが、妙に整頓された藁の塊に、カチョウは驚きです。
両手に抱えていた使い道のある草を藁の近くに置き、二匹の兄豚が探索しているであろう森へ向かいます。
森の中を捜索してすぐ、自分に似てキュートすぎる兄豚二匹を見つけたカチョウは、知的さに溢れた声色で呼びかけました。
「兄さんたち、大変だーッ! メビウスの帯が独りでに真っ直ぐな輪になるくらいの一大事だーッ!」
「「なんだとーッ!」」
セオリー通りに作った藁の家が、まるで童話よろしく崩壊してしまったことを告げると、三兄弟は次の作業に取り掛かります。
「「「──木の家だ!」」」
王道には王道たる所以があるものです。
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