6 / 32
第3案【ヤキモチだなんてとんでもない】
前編
しおりを挟む……と、まぁ。
俺が井合課長を好きになった理由は、そんな些細なきっかけだったのだが……。
「──どうだ! 昼休みを全て費やし、俺様が開発した究極のオナホ! 実際に使って、感想を提出したやつには【ド変態】のレッテルを貼ってやろう!」
「──いったい誰にメリットがあるんですか!」
「──うわッ! こっちに持ってこないでくださいッ!」
……早まったよなぁ。
井合課長は奇妙な形をした発明品を両手で持ちながら、事務所を走り回っている。そして、そんな課長から逃げるように走り回る職員たち。
……まるで、虫を捕まえてはしゃぐ小学生男子と、虫を怖がる小学生女子のような掛け合いだ。実に、不毛。
いつ見ても、井合課長を『可愛い』と思ってしまうのが【惚れた弱み】だとしても、だ。
……なんで俺は、あんな幼稚で低能な人を好きになってしまったのか。悔やんでも、悔やみきれない。本当に、本気で。
井合課長の持つ、特筆すべき長所や特技。……それは、悔しいことに【頭脳】だ。
内容は置いておいて、短時間で発明品を作れるぐらいには頭の回転が早いし、作業効率もいい。この会社で販売している商品やサービスは、ほとんど井合課長が考案したものだ。
馬鹿と天才は、紙一重。井合課長はその言葉を、体現している。
無邪気に珍発明品を持って走り回っている井合課長は、可愛い。悔しいけど、物凄く可愛いのだ。
だけど、なぁ……?
「どうだクソ童貞! 俺様のシコリティシンボルなショタボディには負けるが、かなりの逸品だぞ? 感想を提出しないか?」
井合課長は俺に近寄ると、瞳をキラキラと輝かせながら発明品を掲げてきた。
要望は最低だが、容貌は最高だ。可愛い。なので、すかさず俺は反撃をする。
「──玩具よりも、井合課長がいいです」
こんな具合に、それとなくアピールは繰り返しているのだが……たぶん、伝わっていない。
自分に自信しか持っていない井合課長は、俺が【アプローチ】のつもりで言っている発言も、ただの称賛だと受け取るのだから。
すると、珍しいことが起こった。
「……そ、そうかっ」
──なんと……あの井合課長が、照れたような表情を浮かべたではないか。
発明品を持っていない方の手を口元に寄せる井合課長は、頬がカァッと赤くなっている。
……これは、もしかして。ようやく、俺の想いが伝わったのか?
恋心を自覚してから、それとなくアプローチを続けて何百回目。ついに、この馬鹿で自惚れ屋な課長に俺の気持ちがクリティカルヒットしたのかもしれない。
この反応は当然、俺としては好都合だ。……だが、これはどっちの意味合いなのだろう? 珍しい表情だということもあり、俺は思わず井合課長に見惚れてしまう。
しかし、モジモジと恥じらう井合課長の口から飛び出たのは、予想外の発想だった。
「──オナホの具合を、俺様のケツと同等にしたら至高の逸品になるだなんて……っ。まさか、クソ童貞のお前に気付かされるなんてな」
「……はいっ?」
「そうだよな……っ。ド変態のための道具なんだから、もっとド変態の気持ちに寄り添って作らないとだよな……っ。まったく、俺様としたことが失態だ。ハメ撮り動画なのにカメラに向かって目線を投げないくらいの大失態だ。盲点だったぜ」
……あ~、なるほど。そうか、そういうことか。
──マジでこの人、馬鹿だ。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

あの夏の影
秋野小窓
BL
夏をテーマにした短編です。
幼馴染のお兄ちゃん(社会人)×大学生。全年齢です。
【登場人物】
*正二郎(しょうじろう):信金職員。育海の実家の隣に住んでいる。
*育海(いくみ):大学生。地元を離れ、都内で一人暮らしをしている。

馬鹿な先輩と後輩くん
ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司
新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。
━━━━━━━━━━━━━━━
作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。
本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。

【完結・BL】12年前の教え子が、僕に交際を申し込んできたのですが!?【年下×年上】
彩華
BL
ことの始まりは12年前のこと。
『先生が好き!』と、声変わりはうんと先の高い声で受けた告白。可愛いなぁと思いながら、きっと僕のことなんか将来忘れるだろうと良い思い出の1Pにしていたのに……!
昔の教え子が、どういうわけか僕の前にもう一度現れて……!? そんな健全予定のBLです。(多分)
■お気軽に感想頂けると嬉しいです(^^)
■思い浮かんだ時にそっと更新します

Promised Happiness
春夏
BL
【完結しました】
没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。
Rは13章から。※つけます。
このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
「誕生日前日に世界が始まる」
悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です)
凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^
ほっこり読んでいただけたら♡
幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡
→書きたくなって番外編に少し続けました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる