大嫌いな幼馴染みは嫌がらせが好き

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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6話・大事にするのが好き

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 腕を引かれて、歩き出す。
 向かっているのは、美鶴の家。


「美鶴、待てって……っ! 足、速い……っ!」


 ズンズンと進んでいく美鶴についていくことで、精一杯。

 だけど俺は何とか声を張り上げて、前を歩く美鶴を呼んだ。


「……部屋で聞いてやる」


 美鶴がようやく立ち止まってくれたのは、家の前。

 乱暴に鍵を開けて、玄関に入る。そして美鶴は乱雑に靴を脱ぎ散らかし、俺の腕を再度、引いた。


「美つ――わっ!」


 部屋に着くや否や、美鶴が突然。


「真冬……ッ」


 俺を、抱き締める。

 痛いくらい、強くて。
 だけど悲しいくらい、優しく。

 美鶴に抱き締められるのなんて、今じゃもう珍しくないけど。


「……美鶴?」
「お前、ケガしすぎなんだよ……ッ」
「好きでケガしてるみたいな言い方するなよ……っ」


 美鶴の中にすっぽりと収まったまま、俺は身じろぎもせず受け入れる。


「手、背中に回せ」
「……ワガママすぎ」


 だけど……お望み通り、抱き締め返す。

 美鶴は俺を抱き締めたまま、囁くように呟いた。


「何で、詩織のこと下の名前で呼んでるんだ」


 震えているわけじゃないのに、どこか情けない声。

 思わず、ポンポンと……美鶴の背中を軽く叩く。


「……詩織に、告白されたんだ。それで、下の名前で呼んでって言われた」


 演技の告白、だったけど。

 でも、今はこう言うべきなんだろう。
 それが……詩織の望みでもあるから。

 美鶴は「へェ」とつまらなさそうに呟いた後。


「返事は」


 俺のことを更に強く、抱き締めた。

 ――分かんないんだよ。

 ――お前は、俺のこと……。


「断ったよ」


 もう一度、あやすように背中を叩く。


「好きな奴でもいるのかよ」
「俺ばっかり答えて、不公平だ。……美鶴こそ、俺の質問に答えろよな」
「俺様の質問の方が先だ」
「いや、俺の方が先だったぞ」


 口を閉ざすと、美鶴も口を閉ざした。

 だけど、俺がなにも喋るつもりがないと気付いたのだろう。


「……質問って、何の話だ」


 悔しそうに、美鶴はそう呟いた。

 その様子が何だか可笑しくて、口角が上がってしまう。美鶴にはきっと、見えていないだろうけど。


「だから。……美鶴は、俺のこと……本当は、どう思ってるんだって話」


 努めて平静さを装って、同じ質問を投げかける。

 生徒玄関では、勢いに任せて訊けた。
 だけど今は、勢い任せじゃない。

 さっきとは、状況が違う。だから……逃げることだって、できない。


(心臓、潰れそう……っ)


 怖いくらいの緊張と、不安感。
 それでも美鶴の答えが知りたくて。

 俺は小さく、深呼吸をした。




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