大嫌いな幼馴染みは嫌がらせが好き

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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6話・大事にするのが好き

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 顔を殴られても、俺は倒れなかった。

 そのことに、先輩たちは苛立ちが募っているようだ。


「……ハァ? あの女の告白を、断ったってことかよ……ッ」
「えぇ、そうです」
「まさか……高遠原さんのことが? あれだけ嫌っていたくせに、何でいきなり……っ」
「今だって、美鶴のことなんか好きじゃないです」
「……はい~?」


 支離滅裂だって、分かってる。
 だって俺、初恋すらまだなんだぞ? 人を恋愛的な意味で好きになるっていうのは、よく分からない。

 だけど……この人たちよりは、美鶴のことが好きだと思う。これは、絶対。
 それが恋愛的な好きかと訊かれたら……もう少し、時間がほしいってだけだ。

 そうだよ。皆、ゼロか百しかないっておかしいじゃないか。

 好きになったら奪い取るとか、好きなら速攻ゴールインとか……バカじゃないか?
 恋愛って、もっと……モヤモヤして、ムズムズして……そういうものだろ?


(にしても、だ。……啖呵を切ったのは、いいけど……っ)


 この後、どうするべきなのか。正直、正答が分からない。
 三対一って、絶対一の方が不利だよな。つまり、俺は不利。

 そもそも何で俺、美鶴なんかのために殴られなくちゃいけないんだよ? さっきも言ったけど、俺って絶対被害者だよな?

 ……あぁ、もうっ!


「――美鶴の、バカヤロウ……っ!」


 誰に言うでもなく、呟いた悪態。

 それに。


「――誰が『バカヤロウ』だって?」


 返事がくるなんて、思ってなかった。

 先輩たちが、俺――よりもっと奥を見て、硬直している。
 ファイティングポーズをとっている俺の肩に、誰かの手が置かれた。

 先輩たちの表情と、さっき聞こえた……声。
 この肩に置かれた手が誰のものかなんて、考えなくても分かる。


「……な、んで……っ?」


 ――追いかけてきたら、嫌いになるって言ったじゃないか。

 ――一緒にいちゃダメって、言ったのに。

 話題の、中心人物。


「――今度は、お前を守れるようになりてェんだよ」


 高遠原美鶴はそう言って、不機嫌そうな表情を浮かべた。

 ――守るって何だよ。

 ――俺、お前のせいで最悪な人生だったんだぞ?

 ――今だって、殴られたところがメチャクチャ痛いし。

 文句は、ビックリするくらい溢れてくる。
 なのにどれも、言葉にならない。


「「「……ッ」」」


 震えている先輩たちが、あまりにも……可哀想だったから。


「……誰か知らねェけどよォ」


 低い声で、美鶴が唸るように呟く。
 俺の肩を抱いて、美鶴は先輩たちを睨んだ。


「コイツに手ェ出すのは、間違ってんじゃねェの」


 好きな人から向けられる、冷たい瞳。

 想像しかできないけど……たぶん、すごく……怖い。


「俺様のことが好きだか何だかって聞こえたが、だったら答えは『ごめんなさい』だ。真正面からこねェ奴は特にそうなんだよ。ガキの頃からな」


 チラリと、美鶴を見上げる。


「昔の自分を見てるみたいで、イライラする……ッ」


 こんなに怒ってる美鶴を見るのは、初めてだった。




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