大嫌いな幼馴染みは嫌がらせが好き

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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6話・大事にするのが好き

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 俺は今、胡桃沢さんに告白された。
 そして何故か……頬を、叩かれたところだ。


「え……っ?」


 ジンジンと痛む頬を押さえて、胡桃沢さんを見下ろす。
 そうすると……胡桃沢さんの鋭い眼光と、視線が絡まった。


「そこはっ! ハッキリとっ! 『美鶴のことが大好きだぁっ!』って、言うところでしょっ!」
「えぇ……っ?」


 何故はたかれたのか分からず、呆然と立ち尽くす。

 戸惑う俺から、胡桃沢さんは距離をとった。
 そしてそのまま、胡桃沢さんはビシッと、俺を指さす。


「ウジウジしないでよね、真冬くんっ! 見ててイライラするのっ! なに心揺らいじゃってるのよっ! バッカじゃないのっ!」


 言葉を詰まらせたのは、本当だけど。


(そ、そこまで言わなくたっていいと思う……っ!)


 酷い言われようだ……っ!

 確かに、一瞬……ドキッとはした。女の子から告白されたのなんて初めてだったし、胡桃沢さんのことは嫌いじゃない。

 だからこそ答えに詰まったというのに、胡桃沢さんの怒り方はなんだか予想の斜め上じゃないか……っ!

 腕を組んだ胡桃沢さんは、ツンとして言葉を続ける。


「美鶴に言ってみたら? 今日、胡桃沢さんに告白されたって。そしたら、私も、美鶴も……たぶん、真冬くんも。グチャグチャしてたもの全部、ぜ~んぶ! 楽になると思うわよ!」


 楽に、なると……?

 ……まさか。


「俺と美鶴のために……演技、した……の?」


 昔からそうだった。
 俺と美鶴が喧嘩をしたとき。いつだって仲直りするようにって……二人の間に入ってくれたのは。

 ――胡桃沢さんだった。


『真冬くんも真冬くんよ! 小さい頃はもっとコイツに文句とか言ってたのに、今はなによ? 何で一言も会話しようとしないのっ?』


 自分よりも他人を優先して、他人の心配ばかりする。

 だからって、こんなことまで……っ?


「……そう、演技よ、演技! どう? 迫真の告白だったでしょ!」
「う、うん。……メチャクチャ信じた……っ」
「信じてもらわなくちゃ意味ないから、当然よね?」


 ここまで捨て身になって、俺の背中を押してくれたんだ。
 いつまでも、グチャグチャと一人で考えるのは……やめよう。

 ……でも。


「俺……胡桃沢さんに告白されたって、言わない」
「はぁっ? それじゃあ何の為にアタシが――」


 胡桃沢さんが、文句を言う。

 その言葉を遮って、俺は……ヘラッと、笑みを浮かべてみた。


「『詩織に告白された』って、言うよ」
「……っ!」


 胡桃沢――詩織が息を呑んだのが、ハッキリと伝わる。


「あ、あれ……っ? もしかして、下の名前で呼んでほしいのあたりも演技だったり、冗談だった……? ご、ごめん」
「い、いや、えっと……っ。みっ、美鶴と徹のことは下の名前で呼んでるんだし、アタシのことだけ仲間外れにされるのはイヤ、かな……」
「確かに、それもそうかも……。わかったよ、詩織」


 笑顔を浮かべたまま、俺は詩織に手を振った。


「今日、美鶴と約束してる日だから。……だから、頑張る。ありがとう、詩織……っ!」


 生徒玄関に向かって、俺は走り出す。
 だから、知らなかったんだ。


「諦めようって、思ったのに……っ。真冬くんの、ばか……っ!」


 詩織がなにかを呟いていたことが。
 そして詩織が、何て呟いたのか。

 俺には……聞こえなかったから。




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