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6話・大事にするのが好き
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しおりを挟む先輩たちは、美鶴のことが好き。
だけど美鶴はたぶん、それを知らない。
だから腹いせに、俺が選ばれた。
――じゃあ、先輩たちはどうやって……俺と美鶴の関係を知ったんだ?
そんな疑問を抱えながら迎えた、翌日……金曜日の、朝。
「なぁ、真冬。お前は、怪我するのが好きなのか?」
徹は開口一番、そう言った。
絆創膏をペタペタ貼ってある俺の手を見る徹から、俺は視線を逸らす。
「物が、落ちてきて……」
苦しい言い訳だ。
勘のいい徹は、きっと分かっているだろう。『真冬は今、嘘を言った』って。
だけど、徹は優しい。
「ふ~ん……へ~?」
昔からそうだ。
徹は分かっているのに、なにも言わない。
俺が訊かれたくないことは、絶対に訊かないでいてくれる。
それは、俺のことがどうでもいいからとか、嫌いだからとかじゃない。
俺のことを、すごく大事にしてくれてるから。
「鞄、持とっか?」
「いや、大丈夫。ほら、片方は無傷だろ?」
「確かに!」
無理には引きずり出さない。
俺が話せるようになるまで、待つ。
それが、徹なりの優しさだった。
放課後。
生徒玄関に向かうため、廊下を歩く。
すると、声をかけられた。
「はろろん、真冬くん!」
胡桃沢さんの、声。
後ろから聞こえた呼び声に、俺は思わず……身を強張らせてしまう。
「く、胡桃沢さん……? どうしたの?」
「なぁに、その怖ぁい顔っ!」
強張った表情に気付いた胡桃沢さんが、俺の頭をぽふぽふと撫でる。
なのに俺は、余計なことを考えてしまう。
(この前、美鶴は……胡桃沢さん、に……っ)
――告白、していた。
――『好きだ』って。
正直な感想を言うと……二人は確かに、お似合いだ。美男美女というやつで、絵になる。
二人が並んでいると、何となく近寄りがたいし……好き好んで隣を歩こうとは思えない。
つまり……なにもおかしいことなんて、ないんだ。
「あっ、あの……さ。胡桃沢、さん……」
「ん? なになにぃ?」
幸い、周りに人は歩いていなかった。
胡桃沢さんは明るくて、どことなく軽いテンションだ。
だから本当に訊いてしまっていいのか、不安になった。
だけど、こうしてモヤモヤしているよりはいいと思い……勇気を出す。
「胡桃沢さんって、美鶴のこ――」
「『美鶴のこと好きなの?』とか言ったら、真冬くんでも殴るよ、本気で」
極寒。
さっきまでの明るさと優しさはどこへいったのか。
胡桃沢さんの纏うオーラが、突き刺さるくらい冷たいものへと変わった。
「え……っ? き、嫌い、なの……っ?」
「ちょっと待ってよ真冬くん。……逆に訊くけど、好きになる要素ないでしょ? あんな俺様こじらせたワガママ暴君!」
「う、うぅん……」
確かに、その通りだと思う。
問いかけようとした手前、強く肯定はできないけど。
「しかも! 真冬くんに嫌がらせばっかりするじゃない、アイツ。だから大嫌いよ」
「確かに。……って、俺?」
どうしてそこで、俺の名前が?
突然出された自分の名前に驚いて、俺は小首を傾げた。
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