大嫌いな幼馴染みは嫌がらせが好き

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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5話・監視するのが好き

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 人に手を踏まれたのなんて、初めてだ。
 しかも悪意を持って、攻撃的に。

 そんなの……痛いに、決まってるじゃないか。


「痛っ!」


 痛みに呻くも、先輩は足を止めてくれない。


「何でお前なんだよッ! 何でだよッ何でッ!」
「や、やめ――痛い、です……っ!」
「うるせェんだよッ!」


 何度も何度も繰り返し踏まれ、手が熱くなってくる。


「こんなモン、壊れちまえッ!」


 ガッ、ガッ、と。
 明確な悪意と敵意を向けて、先輩がネックレスを踏む。

 そして……俺の手も、踏みつける。


「クソがッ!」


 踏むという行為に満足したのか、先輩が足を止めた。

 だけど最後に、ネックレスを握り締める手を……蹴り飛ばされる。


「二度と高遠原美鶴に媚びを売るんじゃねェぞッ!」


 それだけ言い、三人は俺を残して歩き出す。
 最後の最後まで、苛立たしげに俺を睨みつけながら。


(媚びなんて、一回も売ったことないんですけど……っ)


 吐き捨てられた言葉を思い返して、心の中で困惑する。

 先輩たちは、美鶴のことが好き。
 だから美鶴が可愛がっていた俺のことが、気に入らなかった。


(だけど、こんなのって……っ)


 慌てて、握り締めていたネックレスを見る。


「……っ」


 守り、きれなかった。

 汚れて、ところどころ土とか砂で傷ついて……一回も身に着けてないのに、すっかり中古品みたいだ。


「初めて……美鶴から貰った、プレゼントなのに……っ」


 シンプルなデザインだけど、美鶴が俺のために選んでくれたネックレス。
 プレゼントしてくれた意味も、どうしてほしいのかもわからなかったものだけど。

 今じゃもう、ボロボロだ。


「……手、痛いなぁ……っ」


 動かせるには動かせるけど、痛い。

 これだけ痛かったんだから、ネックレスくらい守れたつもりだったのに、守れなかった。


(美鶴と関わると、ロクな目にあわない……)


 でも、今回のは……美鶴のせいじゃ、ない。

 美鶴は確かに、カッコいい。男の俺でさえ見惚れるんだから、俺以外の誰かが惚れたっておかしくないと思う。
 だから、先輩たちが惚れた理由も分かる気がする。


(……でも)


 先輩たちのうち、誰か……もしくは全員と、美鶴が付き合ったら?

 ――すごく、いやだ。

 相手が女の子――例えば、胡桃沢さんだったとして。
 そうだったら俺は……納得、できるんだろうか。


(美鶴に、会いたい……っ)


 つい数ヶ月前までは、顔も見たくなかったのに。
 今じゃ、こんなにも……美鶴に会いたくて仕方ない。


「美鶴……美鶴の、ばか……ばぁか……っ」


 誰に言うでもない、中身のない暴言。

 そんなことを呟きながら、俺はただ呆然と……その場に座り込んでいることしか、できなかった。





5話・監視するのが好き 了




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