大嫌いな幼馴染みは嫌がらせが好き

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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4話・すれ違うのが好き

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 翌日。
 金曜日の、朝。
 いつも通り徹の家の前で、徹を待つ。

 すると数分後、トーストをくわえた徹が出てきた。


「おまたへっ!」


 ネクタイはグチャグチャ。

 朝食は途中。

 オマケにズボンのチャックは今上げた。

 髪……は、いつもと同じく寝癖つき。

 明らかな、寝坊だ。


「おはよう徹。……ネクタイ、やろうか?」
「んむっ、んぐっ! ぶはっ、頼む、真ふ――って、真冬? どうした?」


 徹のネクタイに伸ばした手が、ビクッと一瞬、はねる。


「首、怪我したのか? あと何か……顔、ちょっと腫れてね?」


 トーストを無理矢理飲み込んだ徹が、心配そうに俺を見下ろす。
 その目は、温かい。

 だけど俺は、必死に考えていた言い訳を紡いだ。


「き、のうさ! 旧体育倉庫の掃除、頼まれたんだけど……信じられないくらい汚かったんだ! いきなり棚から用具が落ちてきたりして……たぶん、そのときの傷だと思う!」


 ヘラヘラと笑って、徹の疑問に答える。
 ネクタイをしっかり縛り、距離をとった。


「ふーん?」


 口の端についていたパンくずを指で拭った徹が、ジッと俺を見下ろす。


「……じゃあ、信じるわ!」


 クシャクシャっと。
 俺の頭を豪快に撫でて、徹は歩き出した。


(ごめん、徹)


 徹は、優しい。
 こんなにも、優しいんだ。


(嘘吐いて、ごめん……)


 だからこそ、言えなかった。





 放課後になって、俺はあることに気付いた。


(今日、金曜日じゃん……っ!)


 今日は、金曜日。
 つまり、高遠原の家に泊まる日。


(どうしよう……っ)


 生徒玄関で高遠原を待ちながら、俺はグルグルと……高遠原から逃げる方法を考える。

 金曜日はいつも、ここで高遠原を待つ。それが、いつの間にか恒例になってしまった。

 いつも、高遠原は俺を待たせる。今だって、まだ来ていない。おそらく、女子にでも捕まっているのだろう。

 逃げたい理由……それは、俺の体だ。
 今の俺は……体中に、キスマークがある。昨日の夜風呂場で確認して、ガッカリしたくらいだ。

 こんな体で、アイツとヤるなんて。


(『今日は無理だ』って、メールでもしよう)


 携帯を取り出して、ハッと気づく。


(俺……高遠原の連絡先なんて、知らない……)


 今まで散々、高遠原を避けていたのだ。
 そんな俺が、高遠原の連絡先を知っているはずがない。

 どうするべきか悩んでいると、目的の人物が視界に入った。


「……よう、諸星」


 取り巻きたちをつれた、高遠原だ。


「あ……っ」


 取り巻きたちや、高遠原の視線がどこに向けられているのか、意外と分かり易い。

 俺の、首筋だ。


「……行くぞ」


 靴を履き替えた高遠原はそう言い、女子たちに軽い挨拶だけをして、歩き出した。


(何とも、思ってない……のか?)


 それも、そうか。

 俺の首に絆創膏が貼ってあっても、高遠原には関係ない。


(コイツ、俺に嫌がらせするのが趣味みたいな奴だもんな……)


 だったら、俺の怪我とか気にしないだろうし……最悪、喜びそうだ。
 そんな簡単なことに、何で気付かなかったんだろう。

 俺たちは、セフレみたいなもので。ヤれれば、それでいい。

 なのに、何で、俺は……。


(『心配されるかも』とか『怒るかも』って、考えたんだろうな……)


 分かり切っていた現実を突きつけられただけなのに。
 何故か、すごく。

 ――悲しかった。




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