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オマケ 3【先ずは好きだと聴いてくれ】

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 ある程度、三人を落ち着かせた後。


「それじゃあ、俺様はユキミツを送って帰る。ウシ、テメェは送り狼になるんじゃねぇぞ」
「ん? 四葉サン、今『は』って言いました? 牛丸サン『は』って言いましたよね? えっ? じゃあ四葉サンは送りオオカミになるってことッスか? えっ? んん~っ?」
「あばよ、クソ共。ヨイオトシヲー」
「スルーされた挙句なぜか手を握られたーッ! なんでーッ! しかも力強すぎーッ!」

「「良いお年をー」」


 悲鳴を上げる幸三と、上機嫌そうな兎田主任を見送って。俺と先輩は、特に意味もなく手を振った。

 忘年会は、無事に終了。誰も怪我をすることなく、後は帰るだけだ。


「それでは行きましょうか、先輩」
「うん。……君の部屋に向かいはするけど、酔っているのは僕の方だから、ある意味で送ってもらっているのは僕だよね? つまりこの場合、子日君が送り狼になるのかな?」
「行き先は交番に変更でもいいんですよ、この色情魔」
「あっ、ごめんっ、ごめんなさいっ! あまり早く歩かないで、ちょっと足元が覚束ない状態なんだよ今の僕っ!」


 先輩の下品なジョークは、酔っていようと健在だった。だが転ばれても困るし、とりあえずは足並みを合わせよう。
 ゆっくりとした歩みのまま、俺は先輩と夜道を歩く。温まった体に、夜風がほどよく気持ち良かった。


「なんだか、思い出すね。初めて君と二人で歩いたのも、飲み会帰りの夜道だった」
「そう言えば、そうですね。俺、先輩のことは事務所内でもかなり避けていましたし」
「あははっ、確かに。通路を一緒に歩いたこともなかったよね」


 思い出話には、花が咲くもので。先輩の顔には、パッと明るい笑顔が咲いていた。


「ねぇ、子日君。さっきは兎田君に邪魔をされちゃって、ちゃんと言えなかったけど。……本当にこの一年、沢山のことがあったよ」


 不意に。


「君と出会って、嬉しいこともあって、悲しいこともあって。つらいこともあったし、擦れ違いもあった。濃厚で、濃密で……本当に、目まぐるしい一年だった」


 先輩の手が、俺の手に触れた。


「だけどなにを思い返しても、いつもどの思い出にも、僕のそばには子日君がいるんだ。……だから、改めてもう一度。君に、言わせてほしいな」


 そのまま先輩は俺の手を掴み、そっと口元へと引き……。


「──今年一年、本当にお世話になりました。君と出会えて、僕は幸せだよ。……これからもよろしくね、文一郎」


 先輩の唇が、そっと。俺の指に、触れた。
 すぐに手は放され、代わりに笑みが向けられる。その笑顔を見ると、俺の胸はなぜかキュッと締め付けられ。頬には、熱が溜まっていった。

 こんな感じの言葉を、つい最近。俺は先輩から、贈られたばかりだった。


「……あの、先輩」
「うん。なぁに?」
「前に、先輩は……事務所の通路で、俺に色々、言ったじゃないですか。だから、というわけではないのですが……」


 クリスマスイブの、仕事終わり。事務所の通路で、先輩は俺に言ったのだ。
 感謝と、そして……。


「──こちらこそ、ありがとうございました。そしてこれからも、よろしくお願いします。……大好き、です」


 俺がずっと、先輩から欲しくて欲しくて仕方なかった言葉。

 好きだ、と。先輩が、俺に言ってくれたから。

 だから俺は、笑みを浮かべた。この人はどうやら、俺の笑顔が好きらしいからな。


「文一郎……っ」


 先輩の顔が、赤くなった気がする。酒のおかげでもう随分と赤いから、気のせいかもしれないがな。

 ……さて、と。甘ったるい空気は、ここまで。こんなのは、俺らしくないからな。


「──それでは、兎田主任が言っていた『不特定多数の人を愛したい』発言について。俺の部屋でじっくりとお聞かせ願いますね、章二さん?」
「──うわぁんっ! 顔がっ! 笑顔だけど怖いよっ、文一郎~っ!」


 年末だろうと、年を越そうと。これから何年、この人と時を重ねても。
 俺は変わらないし、この人も変わらないし。……俺は変わるし、この人も変わるだろう。

 だから今は、今の俺たちらしい付き合い方で。……なんて。なんだかヤッパリ、これも俺らしくないかもな。





【先ずは好きだと聴いてくれ】 了




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