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続 6章【先ずは好きだと言わせてくれ】
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しおりを挟む泣いていたところを、優しくなだめられて。先輩が買ってきてくれた夕食を綺麗に平らげて、風呂やらなんやらも全て済ませた後。
「──まさか、ベッドに押し倒される日が来るとは」
俺は、驚愕していた。
苦節、数ヶ月。ようやく俺は、先輩にまともな場所で求められたらしい。……本当に、驚愕だ。
昨晩だって同じベッドで寝たのだが、ご存知の通りそれどころではなかった。先輩も俺も、決戦前夜の戦士みたいな気持ちだったのだから。
いや、今までだってそうだ。同じベッドで寝たことはあったのだが、不思議とベッドにインする前に先輩が俺にインしてきたのであって。お互い満足した後にベッドインするのだから、意味深なベッドインは今までなかったのだろう。
そういうわけで驚愕していると、俺の両肩を掴んで押し倒してきた張本人は笑っていた。
「非処女のセリフじゃないね、それ」
「ケダモノには言われたくねぇ」
生憎と俺は、この部屋に着替えのひとつも置いていない。昨日は泊まるつもりで来ていたわけではなかったので、なおさらだ。
ゆえに現状、先輩から借りた服を脱がされかけているわけで……。うぅん、なにもかもが驚愕だ。
「思えば、何度か文一郎は『ベッドでシたい』みたいなことを言っていたっけ。ごめんね、今の今まで叶えてあげられなくて……」
「ケダモノに知性や理性を求めてはおりませんので、ご心配なく」
「うぅぅっ、ベッドの上でも辛辣だ……っ」
ベッドの上でも、先輩は先輩だった。ベソッと情けなく眉尻を下げている。……ついでに、俺が穿いているズボンも下げてきた。マジで抱く気らしい。マジか。
「もしかして、今日は駄目な日? 気分じゃない?」
「そういうわけでは、ないですけど……」
こうなることも考えて、シャワーを借りた際には後ろだって洗ったのだが。……それは、言いたくない。恥ずかしさによって爆発する。主に、八つ当たりされた先輩が。
まぁ、なんだ。つまり、どういうことかと言うと……っ。
「──ムードしか、ないので。少々、気恥ずかしい、です……っ」
……こういうことだ。
好きな人の寝室で、好きな人の手によってベッドへと押し倒された。ただでさえ好きな人の服を纏ったせいで『抱き締められているみたいだ』と嗅覚が錯覚しているのに、現状として好きな人が俺を愛そうとしているのだ。……緊張するじゃないか、照れるじゃないか、恥ずかしいじゃないか。
ズボンを下ろされた俺は、どうしていいのか分からず片腕で口元を隠す。ついでに、顔も下半分を隠した。確実に赤くなっていると、自覚しているからだ。
らしくもなくモジモジと恥じらう俺を見て、先輩は思うことがあったのだろう。動きを止めて、そのまま……。
「な、に、それ……っ。……可愛すぎ、だよ……っ」
……平常運転なご様子で、幸福やらなにやらを噛みしめているご様子だった。
「こんなに可愛い文一郎が見られるのなら、もっと早くベッドに押し倒せば良かった。あぁ、悔しいなぁ……っ」
「そんなガッツリ落ち込まなくても……」
「でも、これからいっぱい見るからいいもんね。……好きだよ、文一郎。愛してる」
「切り替えの早さが逆に怖い」
ベッドの上だろうと、先輩は先輩だな。俺のデコにキスを落としてきたイケメン様を見上げて、俺は妙にすんっと冷静な気持ちになれた。
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