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続 6章【先ずは好きだと言わせてくれ】
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しおりを挟む幸三はモゾモゾと動き、ポケットからスマホを取り出した。
それをタシタシと指先で操作した後、幸三はスマホの画面を俺に向ける。どうやら、なにか見てほしいものがあるらしいぞ。これには、隣の先輩も身を乗り出してくる事態だ。
さて、どれどれ? 差し出されたスマホを見て、俺と先輩は──。
「──ちなみにこちら、四葉サンが作ってくれたお弁当の写真です」
「「──かどっコぐらしのキャラ弁ッ!」」
ガガンッと、ショックを受けてしまった。
これは、圧倒的キャラ崩壊! あっ、いや、キャラ弁の方じゃなくて! キャラ弁はもう完璧すぎる造形だ、崩壊していない! そっちじゃなくて、創造主の方! 兎田主任の方だ!
「こんなに可愛いお弁当を四葉サンが作ったんだと思うと、なんかメッチャ……胸の辺りがギュンとしないか?」
「確かに、するな」
恐怖と言う意味で、な。
……あっ、念のために注釈。今は昼休憩中で、俺たちは既に昼食を食べ終えている。あと五分くらいで午後の就業時間が始まるのだが、今は気兼ねなく談笑ができる時間だ。安心してくれ。
では、話を戻そう。
「あの乱暴者な四葉サンが、こんなに繊細なお弁当を……っ。もう、なんか、困っちゃうよな……」
どうやら、幸三は困っているらしい。またしても体育座りをしてしまうくらい、困っているようだ。
だが、こう見えて俺はレベルアップをした。今の幸三が言葉通り【迷惑という意味で困っている】とは、さすがに思わないぞ。……た、たぶん。
ちょっぴり、嬉しい。そういう意味合いで『どうしていいのか分からない』という、嬉し恥ずかし甘酸っぱしな困惑。……そういう意味なのだろう、幸三よ?
すると、後ろから俺たちの会話を聴いていた先輩が意外なことにも、口を開いた。
「だけど確かに、兎田君は乱暴者だよね。言葉遣いも荒いし、威圧的すぎる。あれじゃあ人を傷つけて当然だよ」
すると、意外や意外。
「なッ!」
幸三が、ガバッと顔を上げたではないか。
「いっ、いやいやっ! 確かに四葉サンは乱暴者ですけど、根はメッチャいい人なんですよ! 言葉遣いが荒いのも、威圧的なのも、ちゃんと『ダメですよ』って言えば改善してくれます! 人付き合いが苦手なだけで、根はホントにいい人なんです!」
顔を上げると同時に始まる、弁論大会。テーマは、兎田主任だ。
幸三の反論を受けて、先輩は椅子の背もたれにギッと体重を預けた。
「うぅん、そうかな? 僕は何度も蹴られたことがあるし、それを『駄目』って言ってきたけど、改善される気配はなかったよ? こうやって『兎田君』って呼ぶと怒るし、人の嫌がることばっかりするし……」
「確かにオレも物理的に上げて落とされたことがありますよ? けど、たぶん牛丸サンの注意の仕方が優しすぎたんですよ! もっとちゃんと、心から『ノー!』って言わないと四葉サンには分からないと言うか、改善する必要性を感じさせないとダメなんです! 四葉サンに押し付けるだけじゃなくて、寄り添わないと!」
「──つまり竹虎君からすると、兎田君は【きちんと対話をすれば、優しくて魅力的な人だって誰しもに伝わる素敵な人】ってことかな?」
「──そう言ってるじゃないですかッ! ……ハッ!」
くるりと、二人が俺を振り返る。
「……ねぇ、子日君。今の、聴いてた?」
先輩はそう言い、そっと手を上げて……。
「──僕、敗訴しちゃったっ」
「──勝訴しちゃったぁ~ッ!」
大満足の、ダブルピース。対する幸三は両手で顔を覆い、さめざめと泣き始めてしまったではないか。……なんだ、このテンション差は。
と言うか、さすが営業に行くだけはある。二人共、実体験をもとに説得力のあるプレゼンをしていたな。茶番だとは分かっていても、なんでか真剣に聞き入ってしまったぞ。これはシンプルに、見習おう。
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