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続 5.5章【先ずは好きだと言ってくれってか(兎田視点)】
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しおりを挟むなんなんだ、本当に。
最近のウシは俺様の仮眠室を談話室だとでも思っているのか、不定期にやって来るようになった。こんなもの、出会ってから初めてのことだ。
このチビ眼鏡も、そう。わざわざこうして待つ必要も、ましてやテメェのために会わなくて済むよう手配してやったというのに、なぜか俺様に会いに来た。
……なんなんだよ、この馬鹿共は。俺様からサンプルを受け取る担当ってやつは、属性【馬鹿】が担うことになってんのか? 人事担当──いや、採用担当をボコッた方がいいのか、俺様は。
扉の前にしゃがみ込んでいたユキミツの頭を、乱暴に掴む。そこに座られていると、シンプルに邪魔だからだ。
「付箋紙にテメェの名前を書いといただろ。テメェはそれを見たら分かるし、なくなっていれば持っていたと俺様にも分かる。ならテメェが俺様を待つ時間は圧倒的に不必要で、俺様がこうしてテメェを扉の前から除外する手間も不必要だろ」
「いだだッ! 爪ッ、爪が食い込んでるッ!」
「果物にだって皮の下には実があるんだ。テメェだって、頭蓋の下には脳があるだろ。頭を使え、ド低能チビ眼鏡」
「うわんッ! ブン以上に辛辣だッ!」
ポイッと、ユキミツを扉の前から引き剥がす。まったく、余計な手間をこさえやがって。
「この俺様が開発したんだ。上手に売り込めよ、ユキミツ」
それだけ言えば、会話は終了。これでようやく、俺様は睡眠──。
「──もうっ! マジで暴力は反対ですよ、四葉サンッ!」
……。
……はっ?
仮眠室の扉を開ける前に、一時停止。俺様はグルリと体を反転させ、床にへたり込んで自らの頭を撫でさすっているユキミツを見下ろした。
「テメェ、今……ッ」
「えっ? えっ? なっ、なにっ、なんすかっ、すかっ!」
「なに、俺様の名前……ッ」
それは、またしても先日のこと。ウシが俺様を『役職で呼びたくない』と言っていた件とは、比較にならないほどの屈辱。
──下の名前で呼んできやがった馬鹿は、さすがにユキミツが初めてで。
俺様が思わず愕然としていると、ユキミツは依然として頭をさすりながら、俺様を見上げた。
「苗字がイヤって言ってたから、名前で呼んでほしいのかと……思ったんです、けど……っ?」
このクソバカ野郎は、なにを言っているんだ?
そもそも、なんでいつもみたいに逃げないんだよ?
さすがに理解できず、意味不明すぎる言動を繰り広げるユキミツを見下ろし続ける。
そうすると、ようやく。
「オレ、四葉サンのことは怖い人だと思ってました。や、正直に言うとまだ怖いですけど。全然断然バッチリ怖いですけど」
ユキミツは立ち上がり、俺様と距離を詰めてきた。
……ほら、見ろ。俺様が怖いんだろう? それなら、なんでわざわざ待ってたんだよ? 俺様はテメェが俺様と会わなくて済むよう、ウシにすらしたことがない【配慮】ってやつをしてやったんだぞ?
と言うか、だ。そもそも下の名前ってのは、ある程度親しい奴同士が呼び合うものじゃないのか? 大前提に俺様を呼ぶこと自体を回避しろよ、普通分かるだろ。
馬鹿街道、まっしぐら。ユキミツを見下ろしたまま、俺様は口を開く。
「なら、なんで名前を呼ぶんだよ」
問いに対する、ユキミツの答えはと言うと。
「──だって、怖い人だけど優しい人だからっ」
やはり、俺様には理解し難いものだった。
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