先ずは好きだと言ってくれ

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
209 / 251
続 5.5章【先ずは好きだと言ってくれってか(兎田視点)】

3

しおりを挟む



 他人に影響を受けるなんて、まっぴらごめん。俺様は、俺様の価値観と物差しがあればそれで十分。

 親しくなろうとする奴がいれば、蹴りを入れる。我が身可愛さにわざとらしいほど人懐っこい奴は、一度睨めばそれで済む。

 初めから、無ければそれでいい。そうすれば、失うことなんてないのだ。
 俺様は、孤高で在りたい。俺様がもたらす【誰かにとっての幸運】なんて、こっちからすると腹の足しにもならないのだから。

 ……だから、いい。俺と同族だったウシに【特別】ができようと、俺様と真に対極の位置にいたネズミ野郎が俺様と同族のウシを【特別】にしようと。どうだって、いい。
 俺様は、人間が怖い。あっさりと影響を与え、簡単に他人の心へ入り込む人間という存在が……ただただ、怖いのだ。
 だから、どうだっていい。周りがどうなろうと、俺様一人が蚊帳の外であればそれでいいのだ。

 ……いい、はずなのに。


『もしかして、兎田サンこそ牛丸サンに失恋したんじゃ……っ?』

『兎田サンの、い、痛いの痛いの。とっ、飛んでいけ~っ。……なっ、なんちゃって』


 ……まったくもって、不愉快な男だ。前任者がそうであるのなら、後任となる男もそうなるのだろうか。気味が悪いロジックだな。

 さて、ここで新たな登場人物──ユキミツの話をしよう。
 コイツはウシの後任で、今では俺様から商品のサンプルを受け取る【生贄】としてチョロチョロしている、小さいガキだ。物理的に、マジで小せぇ。ついでに言うと、中身も小さい。

 ……なぜ、ユキミツの中身が小さいのか。これもまた、先日の話だ。

 ユキミツという男は、ネズミ野郎の……ダチ? らしい。たぶん。
 これもまた、数奇なもので。俺様とウシが同族であるのならば、ユキミツとネズミ野郎もまた、同族だった。

 しかし、少し違う。ネズミ野郎は恐らくメンタルがそこそこ強いが、ユキミツは弱小だ。ウシと同レベルくらいだろう。俺様の偏見ではあるが、間違いはないはずだ。

 俺様がユキミツを【弱小】と評価する理由。それはネズミ野郎──ダチに彼氏ができただけで、この世の終わりみたいな顔をしていたからだ。弱いにもほどがあるだろう? すげぇダセェ、情けねぇ。

 まぁしかし、そのままドヨンと落ち込まれ続けるのも不愉快なもので。俺様はユキミツを元気にしてやろうと、不得手ながらも気を回したのだが……。

 ……その報復に『痛いの痛いの、とんでいけ』だ。腹立たしいことこの上ない。

 気分としては、腹を空かせたガキにパンを渡したらそれを『半分こしよう』と提案されたようなものだ。クソが。俺様はテメェにパンを渡したのであって、なぜそれを返されなくちゃならねぇんだよ。……クソが。

 ……なんにせよ、ユキミツはおかしな男だ。ゆえに、メンタル鎖国を続けている俺様でも名前を憶えられた。生憎と苗字は忘れ──いや、待てよ。【ユキミツ】が苗字だったか?

 と、まぁ。そんなこんなで、俺様とウシは平和的に離別。ネズミ野郎とは元から乖離していたし、ユキミツはユキミツで俺様に怯えているから問題はナシ。
 これで俺様は、入社してようやく一人の世界に──。


「──あっ、お疲れ様ですっ! 商品のサンプル、受け取りに来ましたよっ!」


 ……籠れるはず、だったんだが。

 ピッと片手を上げて挨拶をしてきたのは、三人目の男。ユキミツだ。

 ユキミツは気付けば俺様専用となっていた仮眠室の前に座っていて、どういうわけか俺様がここに戻って来るのを待っていたらしい。
 セリフと、態度。これを見れば、誰だって『ユキミツは仕事のため、兎田を待っていた』というふうに見えるだろう。

 ……だが、違った。


「──サンプル、扉の前に置いといただろ。勝手に持っていけや、非効率野郎が」


 目当ての物は、既に用意済み。であれば、会話も顔合わせも不要だろう。
 こうしてユキミツが俺様を待つ理由なんて、どこにもないのだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...