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続 5.5章【先ずは好きだと言ってくれってか(兎田視点)】
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しおりを挟む他人に影響を受けるなんて、まっぴらごめん。俺様は、俺様の価値観と物差しがあればそれで十分。
親しくなろうとする奴がいれば、蹴りを入れる。我が身可愛さにわざとらしいほど人懐っこい奴は、一度睨めばそれで済む。
初めから、無ければそれでいい。そうすれば、失うことなんてないのだ。
俺様は、孤高で在りたい。俺様がもたらす【誰かにとっての幸運】なんて、こっちからすると腹の足しにもならないのだから。
……だから、いい。俺と同族だったウシに【特別】ができようと、俺様と真に対極の位置にいたネズミ野郎が俺様と同族のウシを【特別】にしようと。どうだって、いい。
俺様は、人間が怖い。あっさりと影響を与え、簡単に他人の心へ入り込む人間という存在が……ただただ、怖いのだ。
だから、どうだっていい。周りがどうなろうと、俺様一人が蚊帳の外であればそれでいいのだ。
……いい、はずなのに。
『もしかして、兎田サンこそ牛丸サンに失恋したんじゃ……っ?』
『兎田サンの、い、痛いの痛いの。とっ、飛んでいけ~っ。……なっ、なんちゃって』
……まったくもって、不愉快な男だ。前任者がそうであるのなら、後任となる男もそうなるのだろうか。気味が悪いロジックだな。
さて、ここで新たな登場人物──ユキミツの話をしよう。
コイツはウシの後任で、今では俺様から商品のサンプルを受け取る【生贄】としてチョロチョロしている、小さいガキだ。物理的に、マジで小せぇ。ついでに言うと、中身も小さい。
……なぜ、ユキミツの中身が小さいのか。これもまた、先日の話だ。
ユキミツという男は、ネズミ野郎の……ダチ? らしい。たぶん。
これもまた、数奇なもので。俺様とウシが同族であるのならば、ユキミツとネズミ野郎もまた、同族だった。
しかし、少し違う。ネズミ野郎は恐らくメンタルがそこそこ強いが、ユキミツは弱小だ。ウシと同レベルくらいだろう。俺様の偏見ではあるが、間違いはないはずだ。
俺様がユキミツを【弱小】と評価する理由。それはネズミ野郎──ダチに彼氏ができただけで、この世の終わりみたいな顔をしていたからだ。弱いにもほどがあるだろう? すげぇダセェ、情けねぇ。
まぁしかし、そのままドヨンと落ち込まれ続けるのも不愉快なもので。俺様はユキミツを元気にしてやろうと、不得手ながらも気を回したのだが……。
……その報復に『痛いの痛いの、とんでいけ』だ。腹立たしいことこの上ない。
気分としては、腹を空かせたガキにパンを渡したらそれを『半分こしよう』と提案されたようなものだ。クソが。俺様はテメェにパンを渡したのであって、なぜそれを返されなくちゃならねぇんだよ。……クソが。
……なんにせよ、ユキミツはおかしな男だ。ゆえに、メンタル鎖国を続けている俺様でも名前を憶えられた。生憎と苗字は忘れ──いや、待てよ。【ユキミツ】が苗字だったか?
と、まぁ。そんなこんなで、俺様とウシは平和的に離別。ネズミ野郎とは元から乖離していたし、ユキミツはユキミツで俺様に怯えているから問題はナシ。
これで俺様は、入社してようやく一人の世界に──。
「──あっ、お疲れ様ですっ! 商品のサンプル、受け取りに来ましたよっ!」
……籠れるはず、だったんだが。
ピッと片手を上げて挨拶をしてきたのは、三人目の男。ユキミツだ。
ユキミツは気付けば俺様専用となっていた仮眠室の前に座っていて、どういうわけか俺様がここに戻って来るのを待っていたらしい。
セリフと、態度。これを見れば、誰だって『ユキミツは仕事のため、兎田を待っていた』というふうに見えるだろう。
……だが、違った。
「──サンプル、扉の前に置いといただろ。勝手に持っていけや、非効率野郎が」
目当ての物は、既に用意済み。であれば、会話も顔合わせも不要だろう。
こうしてユキミツが俺様を待つ理由なんて、どこにもないのだ。
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