先ずは好きだと言ってくれ

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
181 / 251
続 4.5章【先ずは好きだと言わないでくれよな(竹虎視点)】

3

しおりを挟む



 オレよりもメチャメチャに背が高い兎田サンを見上げながら、オレはプルプルと震える。


「こっ、ここっ、こんにちはっ! 営業部の竹虎です」
「あぁ。ウシの後任だな」
「きょっ、今日っ、今日もっ。商品のササッ、サンプルをッ」
「言いたいことはハッキリ言えっつの。どもりすぎてなにが言いてぇのか分かんねぇだろ」


 どもりつつ、尚且つ声を裏返しつつ。オレが手を伸ばすと、兎田サンはすぐに商品のサンプルを手渡してくれた。どうやら、オレが来るとなんとなく分かってくれていたらしい。これはありがたい、ありがたい。

 サンプルを受け取ったのならば、残すは退散のみ。オレはペコペコと頭を下げて、そのまま兎田サンのもとから去って──。


「なんだ。今度はテメェの方かよ」


 ……去ろうとしたのだが、よく分からない言葉を投げられてしまった。

 いつもの兎田サンならば、サンプルの受け渡しが終わればそれで交流終了。なにも言わずに仮眠室やら事務所へ戻り、オレとは必要最低限も喋ってくれないのだ。

 だというのに、今日は違う。兎田サンはオレを見下ろしたまま、会話終了以上話題未満の言葉を投げてきた。


「へっ? な、なにがですかっ?」


 これにはさすがのオレ、幸三君もハテナマークだ。いや、この人のことを理解できた試しなんてないけども。ないけども、それでも今日のハテナマークは異常なほどのハテナマークだ。

 困惑するオレを見下ろしたまま、兎田サンがオレに手を伸ばす。


「ヒデェ面」


 言うと同時に、兎田サンはオレの頬をむにっとつまんできた。……もとい、割と強い力でつねってきたのだ。さすがにその指の力だと、痛い。

 兎田サンはオレの顔をジッと見つめて、なぜか口角を上げている。少女マンガならばときめく展開ではあるが、生憎とオレたちは男同士。胸が高鳴ってはいるが、これは不整脈的なアレだ。端的に言うと、怖いです。


「失恋でもしたみてぇな顔だな、ウシの後任」
「ひょえっ」


 なんでこの人、オレがこの前【三股の末、全員から手酷く振られた】と知っているのだろう。エスパーか?
 などと驚くこと、ほんの数秒──。


「──相手はネズミ野郎か?」
「──ブゥウーッ!」


 突如ぶん投げられた言葉の剛速球により、オレの心は大ダメージ。目の前にある兎田サンの顔に、オレは盛大にツバを吐いてしまった。


「アァーッ! スッ、ススッ、スミマセンッ! ごめんなさいッ、イヤだ殺さないでーッ!」
「うるせぇ殺すぞ」
「ウワァーンッ!」


 謝罪と共に逃亡を図るも、あえなく失敗。走り出そうとしたオレの首根っこは、兎田サンに掴まれたのだった。

 ヤバい! これはさすがにデッドエンド不可避! 未来が視える携帯さえあれば、このデッドエンドを回避できたかもしれないのにーッ!

 ……って、あっ、ちょっと? もしかしてこの人、オレのシャツで顔を拭いてないか? ウソだろっ、そんなことしちゃうっ?


「もうおムコに行けない……っ」
「ネズミ野郎のか?」
「ギャアァーッ!」


 慌てて首を左右に振り乱し、オレは兎田サンの言葉を必死にシャットアウトしようとした。……その間も兎田サンは、オレのシャツで顔を拭いていたが。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

処理中です...