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続 4.5章【先ずは好きだと言わないでくれよな(竹虎視点)】
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しおりを挟むオレよりもメチャメチャに背が高い兎田サンを見上げながら、オレはプルプルと震える。
「こっ、ここっ、こんにちはっ! 営業部の竹虎です」
「あぁ。ウシの後任だな」
「きょっ、今日っ、今日もっ。商品のササッ、サンプルをッ」
「言いたいことはハッキリ言えっつの。どもりすぎてなにが言いてぇのか分かんねぇだろ」
どもりつつ、尚且つ声を裏返しつつ。オレが手を伸ばすと、兎田サンはすぐに商品のサンプルを手渡してくれた。どうやら、オレが来るとなんとなく分かってくれていたらしい。これはありがたい、ありがたい。
サンプルを受け取ったのならば、残すは退散のみ。オレはペコペコと頭を下げて、そのまま兎田サンのもとから去って──。
「なんだ。今度はテメェの方かよ」
……去ろうとしたのだが、よく分からない言葉を投げられてしまった。
いつもの兎田サンならば、サンプルの受け渡しが終わればそれで交流終了。なにも言わずに仮眠室やら事務所へ戻り、オレとは必要最低限も喋ってくれないのだ。
だというのに、今日は違う。兎田サンはオレを見下ろしたまま、会話終了以上話題未満の言葉を投げてきた。
「へっ? な、なにがですかっ?」
これにはさすがのオレ、幸三君もハテナマークだ。いや、この人のことを理解できた試しなんてないけども。ないけども、それでも今日のハテナマークは異常なほどのハテナマークだ。
困惑するオレを見下ろしたまま、兎田サンがオレに手を伸ばす。
「ヒデェ面」
言うと同時に、兎田サンはオレの頬をむにっとつまんできた。……もとい、割と強い力でつねってきたのだ。さすがにその指の力だと、痛い。
兎田サンはオレの顔をジッと見つめて、なぜか口角を上げている。少女マンガならばときめく展開ではあるが、生憎とオレたちは男同士。胸が高鳴ってはいるが、これは不整脈的なアレだ。端的に言うと、怖いです。
「失恋でもしたみてぇな顔だな、ウシの後任」
「ひょえっ」
なんでこの人、オレがこの前【三股の末、全員から手酷く振られた】と知っているのだろう。エスパーか?
などと驚くこと、ほんの数秒──。
「──相手はネズミ野郎か?」
「──ブゥウーッ!」
突如ぶん投げられた言葉の剛速球により、オレの心は大ダメージ。目の前にある兎田サンの顔に、オレは盛大にツバを吐いてしまった。
「アァーッ! スッ、ススッ、スミマセンッ! ごめんなさいッ、イヤだ殺さないでーッ!」
「うるせぇ殺すぞ」
「ウワァーンッ!」
謝罪と共に逃亡を図るも、あえなく失敗。走り出そうとしたオレの首根っこは、兎田サンに掴まれたのだった。
ヤバい! これはさすがにデッドエンド不可避! 未来が視える携帯さえあれば、このデッドエンドを回避できたかもしれないのにーッ!
……って、あっ、ちょっと? もしかしてこの人、オレのシャツで顔を拭いてないか? ウソだろっ、そんなことしちゃうっ?
「もうおムコに行けない……っ」
「ネズミ野郎のか?」
「ギャアァーッ!」
慌てて首を左右に振り乱し、オレは兎田サンの言葉を必死にシャットアウトしようとした。……その間も兎田サンは、オレのシャツで顔を拭いていたが。
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