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続 4章【先ずは抱き締めさせてくれ】
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しおりを挟む迎えた、翌日の昼休憩。
「いっや~、驚いた! ブンが仕事とかを後回しにしないタイプなのは知ってたけど、まさかそっち方面でもせっかちだったとは!」
「俺も驚いてるよ。内緒話をしてるって言うのに、幸三の声が普段通りデカいことにな」
「顔が怖い!」
今日も今日とて幸三と昼飯を食べている俺は、すぐに幸三へ大事な報告をした。
幸三が、俺と先輩の関係に気付いたこと。目撃されてしまったことをきちんと、先輩に伝えたと。……そう、幸三に報告し終えたところだ。
幸三はカレーを元気よく頬張りつつ、俺を見た。
「じゃあ、これからオレは二人の関係を知ってるってスタンスで牛丸サンと接していいってワケだな?」
「それはいいけど、周りに他の人がいるときはやめてくれ。このことを知ってるのは俺たちを除くと、後は兎田主任だけだから」
「えっ! もしかしてオレ、兎田サンよりも後に知ったのか? マジかぁ~っ、一番だと思ったのになぁ~っ」
「──それは、まぁ、うん。……泣きたくなるほど無理もない不可抗力と言うか、なんと言うか……」
「──なんでだ、ブンの目が死んだぞ」
まぁどうあれ、これにて幸三編は終了というわけだな。まったくもって、大変な事件であった。だがこれは、俺と先輩にとって必要不可欠な問題でもあったのだろう。いい仕事をしたな、マジで。幸三、今までありがとうな。
「なんか今、すっげぇ酷いこと考えなかったか?」
「はははっ、まさか。……ところで幸三、知ってるか? どっかの誰かは、こう言ったらしいぞ。『究極の愛はカニバリズムだ』ってな。いやはや、愛ってのは奥深いなぁ?」
「すげぇ雑な話題の逸らし方だし、なんであえてその話題チョイスっ? オレたち今、メシ食ってんだぞっ? しかもオレ、チキンカレー。バッチリ肉なんだけど」
そんな茶化しでも入れておかないと、恥ずかしいではないか。俺は生憎と、こうして恋バナじみたことを誰かとした経験がないのだ。
今日も今日とてうどんを啜る俺を見て、幸三はスプーンを持ったまま動きを止めた。
視線は、俺へ。幸三がなにかを言いたそうにしていると気付き、俺はジッと幸三を見つめ返した。
「なんだよ、幸三。いくらお前が相手でも、俺のことは食わせないぞ。変な素振りを見せたら、秒速で返り討ちにするからな?」
「変な素振りを見せただけで返り討ちって野蛮すぎるだろっ! ……って! そうじゃなくてだな!」
幸三はギャンと泣いた後、すぐに俺と向き直る。
「──なぁ、ブン。お前は今、幸せか?」
なんてこっぱずかしい質問だろう。家族でもなかなかしないぞ、そんなクエスチョン。
だが、幸三は揶揄う目的でそんなことを言ってきたわけではないのだろう。その目は本気で、茶化しが一切感じられなかった。
……なんだかんだと、幸三は俺の友人だ。それに以前、俺がやつれていた姿を見たこともあるからだろう。きっと、心配してくれているのだ。
それにしたって、その問いは恥ずかしいぞ。もしも俺と先輩の関係性がバレていない状況だったとしたら、足先で正面に座る幸三を蹴っていたくらいだ。
……幸三が先に、そんな恥ずかしいことをしてきたからだろうか。俺は俺で、思わず……。
「──あぁ。すっごく、幸せだ」
らしくもない照れ笑いを返してしまったのだから、なんとも居た堪れない。
そんな俺を見て、幸三は一度動きを止めてから。
「……そっ、か。……なら、うん。良かったよ」
小さな笑みを、返してくれた。
続 4章【先ずは抱き締めさせてくれ】 了
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