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続 4章【先ずは抱き締めさせてくれ】
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しおりを挟むまるで、睨むかのようだ。幸三の目は、俺を完全に捕らえようとしている。
それでも俺は、怯まない。目も逸らさず、逃げようともしなかった。
「幸三の言いたいことは、分かってる。俺が逆の立場なら、似たような顔をしたと思うから」
幸三をジッと、見つめ返し続ける。
「だけど、俺の根底に在るのは【そういう気持ち】なんだ。俺は、あの人を守りたい。あの人には、幸せになってもらいたいんだ。そのために必要なことなら、俺はなんでもする。……違うな。俺はなんだって、したいんだ」
「……ふ~ん」
先に目を逸らしたのは、幸三の方だった。
「──『あの人と』じゃなくて、ブンは『あの人には』って思ってるんだな」
小さいけれど、確かな呟き。幸三の独り言が聞こえていたというのに、その呟きの意味はよく、分からなかった。
……だけど、分かっていることもある。このままでは駄目だ、ということだ。
先輩は、言っていた。『トラウマを克服したい』と。『俺がいれば、克服できる気がする』と、言っていた。
ならば、このままでいいはずがない。その手助けを俺がするのは、当然だ。
だったら、こうして【ただ庇い続ける】のは、正しい行いではない。そんなことくらい、こんな俺でも分かっているつもりなのだ。
「今の話は、ちゃんと……俺から、あの人に言う。だから幸三は、なにも……あの人にはなにもしないで、いつも通りでいてほしい」
「ブン……っ」
「ごめん、幸三。凄く、嫌な言い方をしているのは自覚している。だけど、ごめん。……分かって、くれ」
「いや、だから、いいって。ブンの口調がキツイことなんて、隣に座ってた時から知ってるし」
ヘラッと笑った後、幸三は水を飲む。
グラスを空にした幸三はそのまま、またしても真剣な目で俺を見た。
「あの人がブンの相手なら、オレは『いいな』って思った。……だけど、ひとつだけ訂正」
「……なんだよ」
その目から、今度は【逸らさない】のではなく、なぜか【逸らせなく】なって。
「──あの人の【せい】じゃなくて、あの人の【ため】に、ブンが不幸になるなら。……いつかオレは、我慢できなるかもしれないぞ」
ビリッ、と。胸の辺りが、妙に震えた。
「あの人が傷付くことよりも、オレは親友であるブンを選ぶからだ。……分かるよな、ブン?」
「……っ」
「オレは、二人の事情を知らない。それでもその【事情】ってやつがブンにとってメチャクチャ大事なことなのは、分かっているつもりだ。……だけど、ブン。悪いけど、それだけは覚えておいてくれ」
縦に、頷く。……頷くしか、できなかった。
ただ首を、上下に動かすだけ。たったこれだけの行為が、こんなにも重たいものだったなんて。
「ごめんな、ブン。そっちからすると、オレの言っていることは悪役のセリフなのかもしれないよな」
「そこ、までは」
「伝わらなくても、いいよ。オレとお前の価値観が違うなんてことは、疾うに分かっていたことだからな」
「幸三……っ」
人を想い、人に想われる。友情だろうが恋情だろうが、形はなんであれ。
「とにかく、オレは牛丸サンには言わないよ。ちゃんと、それは約束する。だから安心してくれよ、ブン?」
それがこんなにも、ズシンと胸にくるものだったのだと。……俺はきっと、知ろうともしていなかったのだろう。
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