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続 4章【先ずは抱き締めさせてくれ】
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しおりを挟むそんなこと、起こるはずがないと。
どこかで俺は、他人事のように思っていたのかもしれない。
「オレさ、見ちゃったんだよ」
「見たって、なにを? UFOか? はいはい、凄い凄い」
「本当にそうだとしても、せめてもう少しいい反応をくれよ! ……って、そうじゃなくて! もっとなんかっ、なんて言うかヤバいやつ!」
その後、幸三が俺に耳打ちしたものを。……幸三が、見てしまったものが。
それがあまりにも驚愕で、俺はすぐに幸三を振り返ってしまった。可能な限り、普段通りの冷たい顔つきで。
「……なんだ、それ。冗談かなにかのつもりか?」
まったくもって、幸三にしては振るっていない。そう続けたがっている俺に気付いたのか、幸三は神妙な顔をして返事をした。
「オレも、そう思ってるよ」
その目は、どう見たって【嘘】を言っているようには見えない。揶揄いでもなければ、冗談でもなさそうだ。
つまり、幸三の発言は【本気】ということで。それがどれだけ俺にとって不本意だとしても、覆りようのない【事実】ということだった。
「メチャクチャ驚いたんだけど、さ。だけどヤッパリ、ブンには言っておかなくちゃと思って」
「いや──……そう、だな」
俺は一度、幸三がいる方とは逆方向に目を向ける。……つまり、右隣の先輩だ。
俺からの視線に気付いた先輩は、意味は分かっていないが嬉しそうにしている。ニコリと、普段通りの明るく眩しいイケメンスマイルを浮かべているのだ。
「どうかした?」
「いえ……」
俺と目が合っただけで心底幸福と言いたげな先輩からすぐに、俺は幸三へと視線を戻す。
「それ、他の人には?」
「言ってないよ。……だって、ブン以外に言う必要性を感じねぇんだもん」
「そうだな。賢いよ」
いつもの俺なら『珍しく』といった種類の言葉を添えるところだが、そんなことを言っている場合でもない。
「なぁ、幸三。今日、昼休憩の時間を俺に貰えないか? 俺が、奢るから」
「いやっ、別に奢らなくても──」
「──頼む」
珍しく、幸三が戸惑っている。……だけどすぐに、幸三はヘラリと笑った。
「……ん、分かった。じゃあ昼に、食堂で」
「あぁ、よろしく」
俺と約束を交わした幸三は、手を振りながら事務所を後にする。同期の姿が見えなくなるまで見送った後、俺は思わず小さなため息を吐いてしまった。
「どうしたの、子日君? もしかして竹虎君、本当にUFOを見たとか?」
馬鹿者め。その方がまだマシなんだぞ。いっそ、流星群並みにひしめき合うUFOの群れを発見された方がどれだけ『すっごい偶然だなっ』と言って笑えたことか。
「そうですね。奇跡的な光景を目撃したらしいですよ」
「へぇ? 竹虎君はラッキーだね」
なにを言っている、ふざけるな。この馬鹿たれ、あんぽんたんめ。どこがラッキーなものか。おかげで俺は、幸三に昼飯を奢らなくてはいけなくなったのだぞ。
……なんて。これは、ただの八つ当たりだ。なぜなら全て、俺の自業自得なのだから。
──人が通る可能性も考慮せず、自ら先輩に頭を撫でさせた俺が。
──TPOを弁えず、事務所でキスを求めた俺が……全て、悪いのだから。
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