先ずは好きだと言ってくれ

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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続 3章【先ずは一番だと言ってくれないかな(牛丸視点)】

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 不愉快そうな顔をして、子日君は僕を見ている。


「言っておきますけど、兎田主任に対する先輩の言動なら、俺は気にしていませんよ。むしろ、困っていたので助かりました」
「そ、れは……っ」


 瞬時に、理解した。気を遣わせている、と。
 それと同時に、分かってしまった。……彼の前では【完璧に近いだけ】の笑みは意味がないのだ、と。


「……ごめんね、子日君」


 貼り付けていた笑みを剥がし、僕は子日君から目を背けた。


「気を遣わせて、ごめん」


 僕の声を聞いて、子日君はため息を吐く。
 それからギッと、椅子の軋む音が鳴る。子日君が僕に近寄り、顔を覗き込んできたのだ。


「先輩」
「……なに、かな」
「俺の頭、撫でてくれませんか」


 あまりにも、子日君らしくない言葉。僕は当然、驚いてしまった。


「そういうの、子日君は嫌がるでしょ?」
「いいえ、まったく」


 無表情なまま、子日君は続ける。


「ただ、最後に俺の頭を撫でたのが先輩じゃないというのは。……なんだか、落ち着かないので」


 これは、ヤッパリ子日君らしくない。思わず僕は、眉尻を下げてしまった。


「それは僕が、ヤキモチ焼きだから? 気を遣って、僕が喜びそうな言葉を選んでくれているの?」


 なんて、嫌な言い方だろう。さすがの子日君も、眉を寄せてしまった。


「嫌なら、いいんですよ。変なことを言って困らせてしまい、すみませんでした」


 それは、いつもの不愉快そうな表情とは少し違って。
 ……どこか、寂しそうな。傷付いたような、悲しい色をしていて。


「まっ、待って!」


 椅子ごと、僕から離れてしまう。そうなる直前に、僕は子日君の腕を掴んでしまった。


「ごめん、撫でたい! 本当は、本音を言うと僕はいつだって君に触れたい! だから、あのっ、撫でさせてください!」
「そこまで必死にならなくてもいいじゃないですか」
「必死にもなるよ! せっかくのお誘いを、つまらないことで台無しにするところだったんだから!」
「そうですか」


 子日君はそれだけ言って、黙ってしまう。眉を寄せたまま、静かに座っているのだ。
 その姿はもう、僕から離れようとはしていないみたいで。僕はそっと、子日君に向けて手を伸ばした。


「じゃあ、えっと。……撫で、ます」
「よろしくお願いします」


 子日君の、黒い髪。伸ばした先にある、愛しい人の頭。
 僕は子日君の頭に手を伸ばし、遠慮がちに撫で始める。それでも子日君はなにも言わず、そして動かない。

 ……なんて、優しいのだろう。撫で方に対して『物足りない』とも言わなければ、逆に『丁度いい』とも言わない。完全に、僕の意思だけを尊重してくれているのだ。


「……子日君」
「なんでしょうか」
「好きだよ」
「はい」


 僕の好意を、受け止めてくれた。
 そんな子日君の頬に手を滑らせて、僕は。……彼の顔を、そっと持ち上げた。


「こういう時、訊かれるのは嫌なんだっけ」
「はい、嫌です」
「じゃあ、勝手にする。……子日君、目を閉じて」


 素直に、子日君が目を閉じてくれた。

 ……だから僕は、君のことが好きなんだよ。
 たった一文も言う余裕もないまま、僕は子日君の唇にキスをした。




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