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続 3章【先ずは一番だと言ってくれないかな(牛丸視点)】
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しおりを挟むだけど、トリートとしてお菓子を受け取ったのは事実。
「ありがとう、子日君。後でいただくよ」
「正確には俺からではないですが、どういたしまして」
うっ、手強い。僕の子日君は、ヤッパリ手強いよ。……だけど、そんなところが好きだ。
「あっ! ちなみに子日君が僕に『トリックオアトリート』って言ったら、当然僕はトリック一択──」
「──俺のトリック、結構ガチのマジでいきますけど……先輩、耐えられますか?」
「──じゃなくてっ、トリート一択だよっ! おいしいお菓子を用意するねっ、あははっ!」
ううぅ、手強いっ!
それでも、こんな感じでも。子日君は、優しい。だからこそ僕は、少しずつ【恋】によって狂ってきていた。それを、恐ろしいとは思う。
だけどそれ以上に、僕は子日君の優しさが大好きだ。そしてこの関係性がとても尊く感じるし、なによりも大切にしたいと思う。
「僕、本当に子日君とセックスしたいなぁ」
「なにがどうなってそうなったんですか、はしたない」
「ふふっ」
「どうして笑うんですか? 怖いですよ? マジで」
子日君への気持ちを、今日も今日とて再確認。
色々と考えてしまうことはあるけれど、それはほんの小さな些事。喉に突っかかる小骨のようなもの。なればこそ、今日という日はきっと、いつもと同じく素敵な日として終わる。
……そんな僕の平穏を壊す人物が、まさか突然姿を現すとも知らずに。
「──よう、ネズミ野郎」
気付けば夕方になっていたと、僕はその声を聞いて自覚する。
昼夜逆転、上等。暗くなってからが、活動の本番。兎田君が、やって来た。
就業時間中の事務所に兎田君が来るなんて、珍しい。人がいそうな時間帯ならば、人間嫌いの兎田君は来ようとしないはずなのだから。
そういった兎田君の特性を理解している僕と子日君は思わず驚いてしまい、目を丸くした。
他の職員はそもそも、突然現れた兎田君が誰なのかを知らないのだろう。迷うことなく子日君と僕の間に立った兎田君を見て、周りは誰だ誰だと小さくザワめいていた。
……しかし、兎田君がここにいること以上に驚いた点が、ひとつ。
「主任、今日はワイシャツを着ているんですね」
今、子日君が言った通りだ。
なんとあの兎田君が、きちんと服を着ているではないか。……とは言っても、上からみっつ分のボタンは開かれているけれど。
それでも服を嫌い、裸族と差がない兎田君を知っている僕たちからすると、これは天変地異の前触れレベルに驚愕だ。
兎田君はポケットに手を突っ込みながら、なんともオラついた態度で子日君のそばに立つ。
──僕の肝を潰す言葉を、口にするために。
「テメェが『着ろ』って言ったんだろ。文句あんのかよ」
……一瞬の出来事だけれど、僕は僕を褒めたくなった。
──今、よく『えっ?』と口にしなかったな、と。
「確かにそう言いましたけど、まさか本当に着るとは思わなくて」
「あァ? ……って、別にそんなことはどうでもいいんだよ。それに、そんな細かいことはどうだっていいだろ」
子日君も、驚いている。
……だけどね。違うんだよ。
僕と子日君の驚きは今、一瞬にして別種のものになってしまったのだから。
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