先ずは好きだと言ってくれ

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
149 / 251
続 3章【先ずは一番だと言ってくれないかな(牛丸視点)】

6

しおりを挟む



 数十分後、子日君が買い出しを終えて事務所に戻ってきた。

 借りていた鍵を上司に返した後、子日君は僕の隣に戻って来る。


「おかえり、子日君。買い物は無事に終わったかな?」
「ただいま戻りました。会議室に運んだので、後は当事者に任せますよ」


 会話をしながら、子日君は財布の中から領収書を取り出し、精算を始めた。そういった地味な作業を後回しにしないところも、子日君らしくてとても好ましいポイントだ。


「今日も仕事に一生懸命で、それでいて可愛いね、僕の子日君は。こうして見つめていると、君の横顔にキスしたくなるよ」
「俺が少し席を外している間に、頭をトリックでもされたんですか?」
「嫌だなぁ、いつも通りの僕じゃない。……試してみる?」
「そうでしたね、いつも先輩はトリップしていました。なので、上着を脱ごうとしないでください。遠慮ではなく、本心から結構です」


 ふふっ、相変わらずの子日君らしい反応だ。嬉しいなぁ。……なんて言ったら、なぜか子日君は『マゾめ』と言って僕を罵るけれど。

 まったく、酷い冤罪だよ。僕は子日君に虐められるよりもむしろ、子日君を虐めて困らせたいタイプなのにさ。

 ……だけど、不思議なものだ。優しくしたいのに、いざ虐めて子日君が『やめて』と言うと、思わず『もう少しだけ』と踏み込みたくなる。特に、二人きりのとき──もっと言うと、セックスのときなんかは。

 ……いけない、ちょっと良くない方向に思考が進んでしまった。さすがに仕事中は、子日君にとって自慢の彼氏で在れるよう、節度を弁えなくては。

 ……でも、多少ならいい、よね? うん、うん。


「子日君。トリックオアトリ―ト」


 ニコニコと、楽しさから思わず笑ってしまう。
 子日君は僕を見て、瞳をキョトンと丸くさせた。あぁ、いいなぁ、かわい──。


「──まさか、トリックと引き換えにセックスをさせろと? 先輩って本当に、そっち方面の頭の回転が速いですよね」
「──言ってない言ってない!」


 冷たいよ! 女の子たちへの対応と全然違う! 先ず、目が怖い!

 で、でも、いいもん! どうせ子日君はお菓子を持っていないのだから、この戦いは僕の勝ちだもんねっ! ふふふっ!

 ……などと、浮かれたのも一瞬で。


「はい」


 あっさり、ポンと。子日君は僕のデスクに、お菓子を置いたではないか。

 なん、だと。お菓子の霊圧は、なかったはず。
 目論見と全く違う答えが返ってきて驚いた僕は、お菓子をジッと見つめる。……あっ、これ、現実だ。瞬きしても消えないもの。

 つまり、魔法の呪文は不発。僕は眉尻を下げて、子日君を見た。
 そうすると対照的に、子日君は眉を寄せたではないか。


「なんですか。不満そうですね」
「だって子日君、さっきは大人しく女の子からトリックされていたじゃない」
「どことなく不快な言い回しではありますが、事実ですね。まさか先輩が、同じことを言うとは思っていませんでしたけど」


 そのまま、子日君はコソッと呟く。


「せっかく外に出たんですから、少しくらい有意義に使わないと損じゃないですか」
「えっ?」


 それって、つまり……?


「もしかして、ハロウィン関係なく僕にお土産を──」

「──いえ。それはさっき俺に『トリックオアトリート』と言ってきた女の子に俺が同じことを言って、大逆転の末にもぎ取ってきたトリートです」
「──完全に強盗だよ、それ!」


 ちなみに、子日君が言っていた『有意義に使う』の意味はと言うと。
 ……ちゃっかり、自分用の飲み物を買ってきたという意味だった。トホホ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...