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続 3章【先ずは一番だと言ってくれないかな(牛丸視点)】
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しおりを挟む──最近、僕は気付いてしまった。
いや、正確に言うと『ずっと前からそんな気はしていた』なのだが。とにもかくにも最近の僕は、薄々感じていた事柄に対して確信が強まってしまったのだ。
その【事柄】が、なにか。……それは、僕の左隣を見れば分かるだろう。
「子日さん、すみません。資料を作成する上で少し、分からないところがあって……」
僕の、左隣。そのデスクに座る子日君に近付いた、一人の女の子。つい先日、中途採用されたばかりの新人ちゃんだ。
新人女性職員ちゃんはモジモジと緊張した様子で、子日君に声をかけている。当然、子日君は作業の手を止めて女の子に顔を向けた。
「もしかして、係長に頼まれたやつ?」
「あっ、そうです、それです」
「分かった。じゃあ、そっちのデスクで教える」
「はいっ。ありがとうございますっ」
作業途中のデータを保存した子日君は、すぐに椅子から立ち上がる。子日君からご教授いただけることになった女の子は嬉しそうに笑い、そそくさと自分のデスクに向かって歩き始めた。……またしても当然のことではあるが、子日君は無表情だ。
子日君が、席を外した後。僕たちの周りに座っていた職員がボソボソと、内緒話を始めた。
「なんかさ? 最近の子日って、結構いい感じじゃないか?」
「相変わらず笑わないけど、なんか付き合いやすくなった感はあるよな」
「ここだけの話、子日さんを狙っている人が増えたっていう噂まであるらしいですよ」
「「なんだそれ羨ましいッ!」」
男性職員が二人と、女性職員が一人。子日君の話で、盛り上がっている。……それをうっかり聞いてしまった、僕はと言うと。
──なぜだかキーボードに添えていた両手が、ガッタガッタと不気味なほど震え始めていた。
そう、そうなのだ。ずっと前から僕は分かっていたけれど、最近の子日君はもっともっと分かり易く、子日君の【良さ】を放出していた。
おかげさまで、子日君の魅力は周りの職員にも露呈し、認知されたというわけだ。
確かに子日君は、ニコニコしていて明るいタイプの男の子ではない。きっと【接しやすい】という意味合いで言うのならば、子日君よりは断然、竹虎君の方に軍配が上がるだろう。
竹虎君はいつもニコニコしていて、人とのコミュニケーションが大好きで、いつだって明るい男の子だ。そういう面でいくと、確かに子日君はそちらのタイプではなかった。
子日君の笑顔の希少価値は、宝くじ一等当選レベル以上。竹虎君のように元気ハツラツな様子を分かり易く振りまいているわけでもないし、申し訳ないけど愛想がいいわけでもない。
だけど、人の話をきちんと聴いてくれる。求められれば自分の意見を言うし、ただ話を聴いてほしいだけならそうした態度を返せるのだ。
困っている人が『助けて』と言えば、彼は一言返事で『いいですよ』と返す。真っ直ぐ相手を見て、差別をせず平等な対応ができるのだ。
……そして、顔もいい。その点については正直、僕は僕を褒めたくなる。
だって、毎日僕の隣に子日君の綺麗な横顔があるんだよ? それなのに僕は、事務所でキスをすることは我慢している。言葉で『可愛い。ムラムラする。抱きたいしキスもしたい』と訴えるだけで、行動は慎んでいるのだ。
……これは、あれだね。そろそろ子日君に褒めてもらってもいいんじゃないかなってくらいの功績だよ。うん、うん。
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