先ずは好きだと言ってくれ

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
140 / 251
続 2章【先ずは想いに上限を設けてくれ】

15

しおりを挟む



 胸の鼓動が、先輩へ伝わりますように。
 そんな回りくどいことを考えながら、俺は言葉を続ける。


「先輩が相手だと、俺はどうしても意識してしまいます。顎に指が添えられれば胸がザワつきますし、背後から抱き締められると頬に熱が溜まります。鎖骨は……触られないと、分かりませんけど。だけど俺にはこんな相手、世界にたった一人だけなんです」


 俺はちゃんと、落ち着いて言葉を伝えられているだろうか? 少しでも動揺がバレていたら、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
 ……まぁ、死んでなんてやらないけど。先輩みたいな脆い人は、この世界じゃ一人で生きていけないからな。


「ヤキモチ焼きなところも、甘えん坊なところも。……全部可愛いですよ、章二さん」


 そう言い、俺は口角を上げた。演技ではなく、本心から。
 顔を上げた先輩が、笑う俺を見る。その目は驚いたように丸くなって、やがて、すぐに……。


「僕は文一郎の全てを愛おしく思うけど、特に【笑顔】が好きだな。可愛くて、これだけは絶対に、誰にも渡したくないよ」


 ふにゃりと、笑みを浮かべた。
 ……まったく、馬鹿馬鹿しい。そっちだって、可愛い顔をして笑っているくせに。


「嫉妬深いのと束縛気味な男は嫌われますよ?」
「いいよ、誰に嫌われたって。文一郎だけは、僕を嫌わないでいてくれるから」
「それはまた、凄い自信ですね」
「だけど、間違ってはいない。……でしょう?」


 ジッと見つめられて、思わず笑ってしまった。さっきまで拗ねて額をグリグリと当ててきた男が、なにを言うんだか。
 すると、先輩の手が俺の頬を撫でた。


「もう一回、キスしてもいい?」


 問い掛けに対し、俺はすぐに目を閉じる。


「いちいち訊かないでくださいよ。俺は、アンタのすることならなんだって許容しちまうんだからさ」
「なにそれ。男前だね?」


 笑った拍子に、先輩の吐息がかかった気がした。


「そんなところも、大好きだよ」
「それは、どうも」


 笑うと、すぐに口が塞がれて。何度交わしても慣れられそうにない口付けが、先輩から贈られた。

 すぐに先輩の手が、するりと動く。そのまま先輩は俺の首からネクタイを解き、そのまま俺を床に押し倒した。


「先輩って、床でするのが好きなんですか?」
「確かに、初めて君を襲おうとしたのも君が暮らすアパートの床だったね」
「先輩との初めてもほとんど床みたいなものでしたし、前回だって床でした」
「余裕のない男だね、僕って」


 俺が着ているシャツのボタンを外しながら、先輩は笑う。


「今日も今日とて、僕には余裕がないのだけれど。……そんな僕が嫌いかどうか、訊いてもいい?」


 その時点で、もう訊いてるんだっつの。
 ……なんて野暮なことは、さすがに言わない。


「言ったでしょう? 俺は、許容しますよ」


 代わりにそんな言葉を返してから、俺は先輩の首からネクタイを抜き取った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...