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続 2章【先ずは想いに上限を設けてくれ】
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しおりを挟む胸の鼓動が、先輩へ伝わりますように。
そんな回りくどいことを考えながら、俺は言葉を続ける。
「先輩が相手だと、俺はどうしても意識してしまいます。顎に指が添えられれば胸がザワつきますし、背後から抱き締められると頬に熱が溜まります。鎖骨は……触られないと、分かりませんけど。だけど俺にはこんな相手、世界にたった一人だけなんです」
俺はちゃんと、落ち着いて言葉を伝えられているだろうか? 少しでも動揺がバレていたら、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
……まぁ、死んでなんてやらないけど。先輩みたいな脆い人は、この世界じゃ一人で生きていけないからな。
「ヤキモチ焼きなところも、甘えん坊なところも。……全部可愛いですよ、章二さん」
そう言い、俺は口角を上げた。演技ではなく、本心から。
顔を上げた先輩が、笑う俺を見る。その目は驚いたように丸くなって、やがて、すぐに……。
「僕は文一郎の全てを愛おしく思うけど、特に【笑顔】が好きだな。可愛くて、これだけは絶対に、誰にも渡したくないよ」
ふにゃりと、笑みを浮かべた。
……まったく、馬鹿馬鹿しい。そっちだって、可愛い顔をして笑っているくせに。
「嫉妬深いのと束縛気味な男は嫌われますよ?」
「いいよ、誰に嫌われたって。文一郎だけは、僕を嫌わないでいてくれるから」
「それはまた、凄い自信ですね」
「だけど、間違ってはいない。……でしょう?」
ジッと見つめられて、思わず笑ってしまった。さっきまで拗ねて額をグリグリと当ててきた男が、なにを言うんだか。
すると、先輩の手が俺の頬を撫でた。
「もう一回、キスしてもいい?」
問い掛けに対し、俺はすぐに目を閉じる。
「いちいち訊かないでくださいよ。俺は、アンタのすることならなんだって許容しちまうんだからさ」
「なにそれ。男前だね?」
笑った拍子に、先輩の吐息がかかった気がした。
「そんなところも、大好きだよ」
「それは、どうも」
笑うと、すぐに口が塞がれて。何度交わしても慣れられそうにない口付けが、先輩から贈られた。
すぐに先輩の手が、するりと動く。そのまま先輩は俺の首からネクタイを解き、そのまま俺を床に押し倒した。
「先輩って、床でするのが好きなんですか?」
「確かに、初めて君を襲おうとしたのも君が暮らすアパートの床だったね」
「先輩との初めてもほとんど床みたいなものでしたし、前回だって床でした」
「余裕のない男だね、僕って」
俺が着ているシャツのボタンを外しながら、先輩は笑う。
「今日も今日とて、僕には余裕がないのだけれど。……そんな僕が嫌いかどうか、訊いてもいい?」
その時点で、もう訊いてるんだっつの。
……なんて野暮なことは、さすがに言わない。
「言ったでしょう? 俺は、許容しますよ」
代わりにそんな言葉を返してから、俺は先輩の首からネクタイを抜き取った。
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