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続 2章【先ずは想いに上限を設けてくれ】
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しおりを挟む仮に、先輩が俺以外の誰かに触られていたら。俺は絶対に、ヤキモチなんて感情を向けられない。
──それは、先輩が【心配】だから。嫉妬にまで、至れないからだ。
先輩は他人から触られると、確実に右手首を掴む。怯えて、困って、戸惑って。青い顔をしながらも、笑う。この人は、そういう人だ。
先輩がその美貌から誰かに言い寄られても、相手がどれだけ絶世の美女や美男子だったとしても。俺は、妬けない。それよりも『守らなくては』と思い、俺はすぐに先輩をその相手から引き離すのだから。
ヤキモチには、至れない。だから俺には先輩のように【嫉妬】なんて可愛らしいこと、してあげられないだろう。
「そうだよ、ヤキモチだよ。文一郎の、分からず屋。なんで僕の目の前で、他の男に体を許すの? 僕は君を、そんなふうに育てた覚えはないよ……」
「奇遇ですね。生憎と俺も、先輩から育てられた覚えはありません」
「それでも文一郎は、僕の文一郎だよ」
……嗚呼、最悪だ。こんなにも、先輩が面倒なことになっている。
──それなのに、俺は『嬉しい』なんて。そんなことを、考えているのだから。
俺は、嫉妬にまでは至れない。それなのに、されるのは『嬉しい』なんて。……本当に、最悪で最低だ。
先輩に対して【恋情】よりも【愛情】が強い俺では、どうしたって先輩と同じ振る舞いはできないのに。その点を『申し訳ない』と思っても、それまで。俺はこんな俺を、変えられない。……先輩を、傷つけたくないから。
そして、きっと……。
「──だけど、そういう君が好きなんだよ」
先輩はこんな俺を、宝物かなにかのように扱うのだろう。
「君は誰に触られても、きっとなにも思わない。そしてなにも、感じない。だから僕は、安心ができる。そういう君に惹かれたし、そういう君だから好きになれた」
「先輩……っ」
「だけどその気持ちと同じくらい、僕は心配で堪らないんだよ」
先輩から回された腕の力が、強まった。
「無防備すぎるよ。君にはもっと、周りを警戒してほしい。……だけど、警戒しないで。今のままの君で、いてほしい……っ」
俺は、他人にあまり関心が持てない。そのせいできっと、先輩を不安にさせているのだろう。
──そしてそれと同じくらい、先輩を安心させているのだ。
なんとも滑稽で、なんとも皮肉な話だろう? 先輩はそんな俺が心底心配で、同じくらいそんな俺じゃないと駄目なのだから。
俺は手を動かそうとして、すぐに、動きを止める。俺から撫でることも、ましてや抱擁を返すこともできないからだ。
……だから代わりに、俺は口を動かした。
「先輩。……俺の胸、触ってくれませんか?」
俺の提案に、先輩が動揺する。回された腕の微かな動きで、俺は先輩の心情に気付いた。
しかし先輩は顔を上げて、素直に俺の胸へ手の平を当てる。
「胸の鼓動、分かりますか?」
「……うん。分かるよ」
「これ、いつもより少し速いんです。……その理由が、先輩には分かりますか?」
問いを受けて、先輩は黙ってしまった。おそらく【答え】を分かってはいるのだが、確証が持てないのだ。……俺の日頃の行いが、先輩をそうさせているのだろう。
だから俺は、自ら答えを口にした。
「──先輩が相手だからですよ」
そうすると、ほんの少しだけ。
より一層俺の鼓動を感じるためかのように、先輩の手が俺の胸を強く圧した気がした。
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