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続 2章【先ずは想いに上限を設けてくれ】
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しおりを挟むそんなわけで、先輩からのお誘いに応じた俺はと言うと……。
──今日は、予想外のことばかりが起こるなぁ、なんて。そんなことを、考えていた。
「あの、先輩? これは、いったい……?」
現在、先輩が暮らすマンションの一室にて。俺の部屋よりも広く、そして綺麗なその部屋で。
──俺はクッションの上に座らされた後、なぜか背後から先輩に抱き締められていた。
「……」
部屋の主である先輩は俺の肩に額を当てたまま、なにも喋らない。
……いや、なんだこの状況は? 誰でもいいから、説明をしてくれ。
俺たちは共に会社から出て、電車に揺られて、すたこらさっさ。先輩の案内によって連れられたマンションの前で、数分前の俺は考えていたのだ。
部屋に入った後、俺はなにをしたらいいのか。【ゲーム】という共通の趣味を封じられた俺にできることは、悲しいことになにも思いつかなかった。
もしかすると部屋に入ると同時に、押し倒されるのでは。その場合俺は、いったいどんな反応を返したら良いのだろうなどと。……そんなことばかり、考えていた。
だがいざ、頭をパンパンにしたまま先輩の部屋へ入ると。……先輩は開口一番、俺にこう言ったのだ。
『──甘えさせて』
それからさらに案内され、クッションに座るよう指示を受け、実際に座ると背後からの強い抱擁。……そして、現在に至る。
……いや、なんでだ? 全然、状況が分からん。
シンプルに落ち着けない俺は、ただただその場で座り続ける。先輩は先輩で、ただ黙ったまま俺にギューッと抱き着いたり。かと思えば突然、グリグリと額を押し付けてきたり。……やはり、落ち着かない。
今日はほとんど一緒にいたはずだが、まさかなにか嫌なことでもあったのか? あったとすれば、俺が幸三と昼食を取っていた昼休憩だろう。
まさか、またしても兎田主任に虐められたのか。あの人は精神を抉り、傷が付けば笑顔で塩を塗りたくるような人だ。この仮説が正しければ、先輩がこうしてしおらしく俺に甘えるのも納得だろう。
しかし、だ。ならば俺は、いったいどうすれば良いのだろう?
分かり易く甘やかすために、先輩の頭を撫でたらいいのか? いや、しかし……俺から先輩に触るのは、先輩としてはまだ無理なのかもしれない。落ち込んでいるところに追い打ちなんて、最悪もいいところだ。
そうなると、俺は【動かざること山の如し】となるしかない。ピシッと姿勢を正し、先輩からのアクションを待つ。
すると、背後から俺を抱く先輩が囁いた。
「子日君。……キスが、したい」
うっ。出た、出たぞ。俺が苦手なストレートな甘えだ。
ここで『はい、どうぞ』と答えるのは、猛烈に恥ずかしい。なんだか【愛されて当然】といった態度に見えるからだ。
かと言って『俺も先輩とキスがしたいです』とは、言えない。俺からの触れ合いは先輩を傷つけるかもしれないし、大前提にこれは恥ずかしい。
……となると、だ。
「勝手にしたらいいじゃないですか」
俺にできる返事は、普段の素っ気ないもの一択だけ。いつもの先輩なら、この返事で大正解なのだから。
……しかし、今の先輩は【いつもの先輩】ではないようで。
「勝手にはできないよ。強引なことをして、拒絶されたくない」
珍しく、俺からの明確な答えを求めてきたのだった。
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