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続 2章【先ずは想いに上限を設けてくれ】
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しおりを挟むそれから数時間後の、終業時間。
「──子日君。今晩って、空いているかな?」
先輩が小声で、俺にそう訊ねてきた。
ふふふっ。『周りに関心がなさすぎだ』と同期に言われている俺でも、さすがにこの意味は分かる。……ズバリ、先輩は俺の部屋に来てゲームをしたいのだ。
となれば、答えはひとつ。俺は無表情のまま、コクリと縦に頷くだけだ。
……実は最近、先輩は俺とゲームをすることにハマっている。先輩本人が言うには、どうやら先輩はあまりゲームをした経験がないらしい。だからなのか、最近は俺の部屋でゲームをする機会が増えた。
顔が良く、コミュ力も高くて仕事もできる。残念なセクハラ言動させ封印すれば、先輩のスペックはとてつもなく高い。
そんな先輩を、平凡な俺が負かせる唯一の手法。それが、ゲームだ。だからか、俺は先輩とゲームをする夜の時間が結構気に入っている。……先輩には、なんとなく恥ずかしくて言えないが。
先輩は経験が少ないからか、ゲームがあまり得意ではない。どんなジャンルのゲームをプレイしても俺に負けるのだが、やはりそれは少し悔しいらしい。何度も、再戦を申し込んでくるのだ。
そんなところが可愛くも思えるのだが、それも当然、恥ずかしいから先輩には言わないぞ。
だがしかし、あまり圧勝し続けるのも可哀想だな。今日は少し簡単なゲームを選んで、先輩に勝つためのコツを教えてみよう。
ゲームに対してムキになる先輩の姿に、期待感から胸をほこほこと温める。そんな俺に、先輩は言葉を続けた。
「──今日は、僕の部屋に来てくれないかな」
……おっと? これは、さすがに予想外。
なんともおかしな話だが、俺はまだ先輩が暮らすマンションの中には入ったことがない。近くにまで行ったことはあるが、中にはまだ入ったことがないのだ。
とは言っても、先輩は一人暮らし。家族が待ち受けているわけでもないのだから、緊張する必要はナシ。……ご家族がいたところで、俺は俺のままだが。
デスク周りを片付けつつ、俺は先輩に返事をする。
「それは別に構いませんけど、それだとゲームができないですよ?」
「今日はね、ゲームがしたくて君を誘ったわけじゃないんだよ」
おっとっと。これはまた、予想外。
先輩は最近、なにがなんでも俺にゲームで勝とうと猛特訓中。てっきり、そういう流れのお誘いだと思っていたのだが、違ったか。
……と、なると? 先輩が俺を誘う意図が、唐突に分からなくなってしまったな。
わざわざこの会社から近いアパートではなく、あえて遠くにある先輩が暮らすマンション。そこに俺を呼ぶなんて、いったいなにが目的で……。
……いや、違うな。こういうのはたぶん、目的や理由を探すものではないのだろう。
なぜなら俺たちは、恋人同士。相手を部屋に招くことに、大義名分やでかでかとした理由は必要ない──……んっ? ……いや、待てよ?
『──あぁあもうッ! だからッ! 俺はアンタが相手だったら枕はいつだって【イエス】になってるって言いたいんだよッ!』
ふと思い出した、以前の会話。
……もしか、して?
「来てくれるかな、子日君?」
……えっ。
そっ、そそっ、そういう意味、なの、か……っ?
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