先ずは好きだと言ってくれ

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
135 / 251
続 2章【先ずは想いに上限を設けてくれ】

10

しおりを挟む


 それから数時間後の、終業時間。


「──子日君。今晩って、空いているかな?」


 先輩が小声で、俺にそう訊ねてきた。

 ふふふっ。『周りに関心がなさすぎだ』と同期に言われている俺でも、さすがにこの意味は分かる。……ズバリ、先輩は俺の部屋に来てゲームをしたいのだ。
 となれば、答えはひとつ。俺は無表情のまま、コクリと縦に頷くだけだ。

 ……実は最近、先輩は俺とゲームをすることにハマっている。先輩本人が言うには、どうやら先輩はあまりゲームをした経験がないらしい。だからなのか、最近は俺の部屋でゲームをする機会が増えた。

 顔が良く、コミュ力も高くて仕事もできる。残念なセクハラ言動させ封印すれば、先輩のスペックはとてつもなく高い。

 そんな先輩を、平凡な俺が負かせる唯一の手法。それが、ゲームだ。だからか、俺は先輩とゲームをする夜の時間が結構気に入っている。……先輩には、なんとなく恥ずかしくて言えないが。

 先輩は経験が少ないからか、ゲームがあまり得意ではない。どんなジャンルのゲームをプレイしても俺に負けるのだが、やはりそれは少し悔しいらしい。何度も、再戦を申し込んでくるのだ。
 そんなところが可愛くも思えるのだが、それも当然、恥ずかしいから先輩には言わないぞ。

 だがしかし、あまり圧勝し続けるのも可哀想だな。今日は少し簡単なゲームを選んで、先輩に勝つためのコツを教えてみよう。
 ゲームに対してムキになる先輩の姿に、期待感から胸をほこほこと温める。そんな俺に、先輩は言葉を続けた。


「──今日は、僕の部屋に来てくれないかな」


 ……おっと? これは、さすがに予想外。
 なんともおかしな話だが、俺はまだ先輩が暮らすマンションの中には入ったことがない。近くにまで行ったことはあるが、中にはまだ入ったことがないのだ。

 とは言っても、先輩は一人暮らし。家族が待ち受けているわけでもないのだから、緊張する必要はナシ。……ご家族がいたところで、俺は俺のままだが。

 デスク周りを片付けつつ、俺は先輩に返事をする。


「それは別に構いませんけど、それだとゲームができないですよ?」
「今日はね、ゲームがしたくて君を誘ったわけじゃないんだよ」


 おっとっと。これはまた、予想外。
 先輩は最近、なにがなんでも俺にゲームで勝とうと猛特訓中。てっきり、そういう流れのお誘いだと思っていたのだが、違ったか。

 ……と、なると? 先輩が俺を誘う意図が、唐突に分からなくなってしまったな。
 わざわざこの会社から近いアパートではなく、あえて遠くにある先輩が暮らすマンション。そこに俺を呼ぶなんて、いったいなにが目的で……。

 ……いや、違うな。こういうのはたぶん、目的や理由を探すものではないのだろう。
 なぜなら俺たちは、恋人同士。相手を部屋に招くことに、大義名分やでかでかとした理由は必要ない──……んっ? ……いや、待てよ?


『──あぁあもうッ! だからッ! 俺はアンタが相手だったら枕はいつだって【イエス】になってるって言いたいんだよッ!』


 ふと思い出した、以前の会話。
 ……もしか、して?


「来てくれるかな、子日君?」


 ……えっ。
 そっ、そそっ、そういう意味、なの、か……っ?




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます

処理中です...