先ずは好きだと言ってくれ

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
116 / 251
続 1章【先ずはセックスさせてくれないかな(牛丸視点)】

7

しおりを挟む



 兎田君から貰った、飴。
 その単語を聴き、子日君の表情が一変した。


「──えっ、メチャメチャ危ない物じゃないですか」
「──そう! その反応! その反応が正解だよ、子日君!」


 露骨な、警戒。さすが僕の同期、兎田君だ。彼の名前を出せばどんな怪しいものも文字通りの怪しさとなる。
 兎田君、ありがとう! 君が君であるおかげで、子日君からの誤解が解けたよ! ……君のせいで誤解されたんだけどね!

 飴に対する認識が明らかに変わったらしい子日君は、まるで爆弾を見るかのような目で小瓶を見ていた。うんうん、その反応、その反応だよ!

 しかし、持ち込んだのは僕だ。僕はその場で正座をして、子日君に対して小さく頭を下げた。


「ご推察の通り、よろしくないアイテムです」
「なんて物を俺の部屋に持ち込んでいるんですか」
「ぐうの音も出ません」


 縮こまった僕を見て、子日君はわざとらしくため息を吐いている。
 ……だが、すぐに。


「──じゃあ、俺が舐めますよ」


 そう言い、子日君は小瓶に手を伸ばしたのだ。
 突然のラッキースケベ展開──もとい、危険な展開。僕は慌てて顔を上げて、子日君を見た。


「えっ! なっ、なんでっ! 今の聴いてたっ?」
「聴いてましたよ。だからこそ、俺が舐めます」


 子日君は小瓶を拾い、中身をジロジロと眺め始める。


「きっと兎田主任のことですから、このよく分からない飴を舐めて感想をお伝えしないと怒るのでしょう?」
「えっ? ……そ、う、なのかな?」
「だって兎田主任って、研究を人生の中心に置いているような人でしょう? そして他人をモルモット以下の存在にしか認識していないはずです。……中でも、俺たちのことは特に」
「同期への酷すぎる評価なのにそれを『正当だなぁ』と思う僕を赦して兎田君ッ!」


 しかし、どうなんだろう? もしかして兎田君は、あれだけ僕からの惚気を嫌がってみせたわりに、実はそういう話に興味津々なのかな? それとも、子日君が言う通り研究熱心ってこと?

 同期である兎田四葉君のことが分からなくなって混乱している僕には構わず、子日君は小瓶の蓋をキュポッと開けてしまった。


「この飴玉がどういったものかは分かりませんが、さすがに死なないですよ。大丈夫です。俺、体は丈夫なので」
「だ、だけど──」
「先輩が舐めるより、俺が舐める方が何億倍もマシですから」


 その言葉を聴いて、僕はようやく理解する。

 ──どこまでいっても、子日君は僕の【幸福】を優先していて。つまり、僕を守ろうとしているのだ、と。

 正体不明の謎アイテムを服用することに、一切の躊躇を見せない。それは、実験の対象に【僕】がいるから。僕におかしなことが起こるくらいなら、子日君は自分が犠牲になる方を選択するのだ。

 ……だから僕は、子日君が心配になってしまうのに……ッ。

 小瓶の中から、子日君は飴玉を一粒だけ摘まんだ。「綺麗な色ですね」なんて感想を言いながら、子日君は口を開く。

 もしもこのまま、子日君が飴玉を舐めたとして。兎田君が言う通り、子日君がド淫乱になってしまったら。……それは存外、僕にとって好ましいシチュエーションだろう。

 ……だけど。だとしても……っ!


「──駄目だよ、子日君ッ!」


 ──だけどヤッパリ、こんな形で子日君と事に及びたくない!

 僕は子日君の手首を掴み、そのまま強引に子日君の手を引き寄せて──。


「ちょっと、先輩……ん、っ!」


 飴玉を摘まむ子日君の指を、僕はその飴玉ごと口に含んだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます

処理中です...