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4章【先ずはハッキリさせてくれ】
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しおりを挟むよく『好きと嫌いは紙一重』なんて言うけれど、つまりはそういうことなのだろうか。
先輩を目で追ったり、先輩のことを考えたり……。そういう類のもの全部が、先輩へ向けている俺からの関心。
つまり、俺の変化をシンプル明快な言葉にするのなら。
──俺は先輩を【嫌い】とするあまり、一周回って【好き】と似た思考回路を辿ってしまっているのだろう。
……マジか、驚愕だ。驚きすぎて、涙が出そうだぞ。
目が合うと、先輩は笑ってくる。それを見ると、ゾワゾワよりはムカムカしてきて。しばらくの間、先輩の笑顔しか考えられなくなる。そのくらい、苛立って仕方ない。
……しかしこれは、本当に【苛立ち】なのだろうか。チラッと右隣のデスクを見ると、なぜか俺からの視線に先輩が秒で気付く。
俺を見て案の定、先輩は腹が立つ笑顔を作った。
「あれっ? 今日はなんだかご機嫌だねっ?」
そう言って終始笑顔を向けられると、イライラする。
──あぁ、クソッ。これではまた、頭から先輩が離れないではないか。
こんなことになるのなら、隣を見るのではなかった。
怒っているとき、そのことを考えないようにしようとしてもずっと、考えてしまう。そういう経験が、誰にでもあるだろう。まさに今、それなのだ。
……無視だ、無視をしよう。俺は先輩に返答もせず、俺と先輩のデスクの間にある電話の受話器に、手を伸ばした。
俺はとある内線番号を押し、受話器を持って、相手側が出るのを待つ。
『はい、企画課です』
数回のコール音の後、声が返ってきた。
俺が内線電話をかけたのは、会社の三階にある企画課の事務所だ。
「商品係の子日です。確認したいことがあるのですが」
『はい。なにについてでしょうか?』
俺は午前中に目を通していた書類をデスクに広げて、先ほどまでパソコンで作っていたデータと見比べる。
「頂いた資料でどうしても分からないところがありまして。作成担当の人に繋いでもらってもいいですか?」
『分かりました。担当者の名前は分かりますか?』
俺は資料の一ページ目に書いてある名前を読む。えぇっと、これは……【兎】と【田】? この漢字は、なんて読むのだろうか?
「うさぎだ、さん? ……で、合っていますか?」
『えっ?』
先ほどまで親身な様子だった電話の相手が、瞬時に暗い声を出した。
しまった、もしかしてこの人がウサギダさんだったのか。名前を読み間違えてしまったのかと、俺は肝を冷やす。
すると、電話の相手は途端に狼狽えたような声を出した。
『えっと、兎に田んぼの田で『うさいだ』なのですが。……えっ、本当にその人に内線ですか?』
「えっと、はい。その人が担当だと書いてありますね」
どうやら兎田さんという名前らしい。華麗に読み間違えてしまったようだ。今すぐ覚えよう。
……それにしても、だ。作成担当者がその人なのだから、その人に用事があるに決まっているだろう。いったいなにを言っているのだ、この人は。
俺が肯定しても、その人はオロオロした様子だ。
その焦りというか、驚きというか……。そういうのが、電話越しでもリアルに伝わってきた。
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