先ずは好きだと言ってくれ

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
30 / 251
3章【先ずは優しさで包んでくれ】

3

しおりを挟む



 それからまた、数日後。


「子日君。一緒にお昼ご飯を食べてくれないかな?」


 ある日の昼休憩に、先輩は隣のデスクから俺を誘ってきた。

 相変わらず先輩は、俺にだけ必要以上にちょっかいをかけてくる。俺はほんの少しだけ体を引いて、先輩から目を背けた。


「すみません、今日はちょっと」


 俺がそう言うと、先輩は椅子に座ったまま体を俺に向ける。


「子日君はいつもそう言うよね? いったい、いつになったら僕とご飯を食べてくれるのかな?」
「えっと、そうですね。少なくとも、俺か先輩がこの係にいる間は無理かと」


 遠回し且つストレートな剛速球を投げたつもりだ。しかし、先輩は強固すぎるキャッチャーだったらしい。


「それは困ったなぁ。それじゃあ、今日は僕を優先してくれるかな?」


 ──日本語よ。仕事をしろ。

 なにが『それじゃあ』なのだろうか。接続詞が全く仕事をしていない。少しは、数分前までキーボードを叩いていた俺を見習ってほしいものだ。

 だが、そろそろ諦めるいい頃合いなのかもしれない。俺はため息を隠すことなく吐き出し、先輩に目を向けた。


「分かりました」


 正直なところ、そろそろこのやり取りを繰り返すのに疲れてきたところだ。俺は立ち上がり、先輩をチラッと見る。


「今日はご一緒いたしますが、席は離れてくださいね」
「あははっ。それは『ご一緒』って言わないよ、子日君」


 なんで俺の日本語は訂正してくるのだ。そこは仕事をするなよ、ボケ。などという悪態は、視線で送る。……あぁ、クソ。また笑顔で受け止められた。この有能ポンコツキャッチャーめ。

 やはり何日経ったって、俺はこの人が苦手だ。

 ……余談ではあるが、他人への関心が薄かった俺には、生憎と【親友】という存在がいない。幸三とは仲がいいとは思うが、それは【同期】としてだ。
 幸三にはよく、こんなことを言われていた。


『ブンはホンット、周りに興味なさすぎだよなー? もっと周りに関心持ってみろって。楽しいからさ!』


 幸三はそう言い、俺にいつも笑うのだ。

 ……違う。俺は別に『楽しいから』関心を持っていないわけではない。ましてや『楽しくなりたくない』わけでもないのだ。
 どうしたって、俺には関心が持てないだけで……。

 それでも、多少なりとも他人に対して興味はある。それは、事実だ。
 だが、寝ても覚めても考えるほどか? 一緒の空間にいたら気にはなるが、離れたらどうだっていいだろう。

 俺は俺で、相手も相手で……。


「子日君とお昼ご飯が食べられるなんて、今日はいい日だなぁ」


 隣に並ぶこの人も、どうして好きだ嫌いでそんなに一喜一憂するのだろう。
 好かれているのなら、それでいい。嫌われているのなら、それもそれでいいじゃないか。

 ──たった一言『そうなんだ』で終わる俺は、そんなにおかしいのかよ。

 そこで少しだけ、俺は先輩の気持ちに近付けた気がした。

 好意や嫌悪といった感情は、苦しい。先輩の思想はそういったもので、なんとも生きづらそうだ。
 関心が薄い俺に対して、周りは関心を向けるようにと強要してくる。そうした他人からの関心は、少しだけ。……息苦しいかも、しれない。

 ここまで分解して、ようやく俺は先輩に理解を示せて。……ちょっとだけ、同情してしまっているのだろうか。だから俺は、先輩を拒絶しきれないのだろう。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

処理中です...