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2章【先ずは貞操を守らせてくれ】
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しおりを挟む一瞬だけ。本当に一瞬だけ、今までのことは演技だったのかなって思ったさ。
……でも、そうだよな。
──先輩はそういう人なんだよなクソがッ!
近寄ってこようとする先輩の間に、俺はすかさず幸三を引っ張り込む。
突然引っ張られた幸三は驚いた様子で、俺と先輩を交互に見やる。
「えっ、なになにっ、オレもっ? さすがに男は初めてだな~っ」
「馬鹿かッ!」
変な勘違いをしている幸三は、戦力外どころの問題ではない。
しばらく、幸三をバリア代わりにして攻防すること、数分。ようやく諦めたのか、先輩が大人しくなった。
……さて、ここで少し前の問い掛けを思い出そう。『もしも今、同じことを言われても安心するか』や『同じ気持ちで、感謝ができるのか』というさっきの質問だが。……もう分かるだろう。
──答えは『ノー』に決まっているということがなッ!
先輩が言う『フラットに接してほしい』というのが、もう素直に受け入れられない! 全然余裕で生理的に無理なのだ!
そして、この人になにかを感謝する──いわゆる【借り】を作りたくない!
それと、俺が先輩を『先輩』と呼んでいるのは、俺なりに距離を空けているつもりなのだ! 先輩には、そこに気付いてほしい! 一秒でも早く!
乾いた口を潤すように、俺はウーロン茶を一気に飲み干す。
俺と先輩の攻防戦に巻き込まれていた幸三は酔っているせいか、座った目で先輩を見た。
そのまま、ポロッととんでもないことを口にする。
「──牛丸サンって本当に、ブンのこと好きッスよね~っ」
その問いに、先輩は自分の右手首を撫で始めた。
「そう見える? でも、手強いんだよね」
本人の前でなんの話をしているんだ。幸三が「わっかる~」と同意したのを聞いて、俺は立ち上がる。
「あれっ、子日君?」
「ブン、どうした~?」
二人が不思議そうに俺を見るが、俺はそんな二人に背を向けた。
「……他の人に挨拶してきます」
そう言うや否や、俺は二人の元を離れる。
……昔から、この手の話題は苦手だった。
俺には周りの人のように【好き】とか【嫌い】とか、そういうのはよく分からない。
これでも一応、彼女がいたことが人並みにはあった。相手から告白されて、不快だと思わなかったから付き合って。……だけど、その彼女が【求めてくること】が、俺にはいつまで経っても理解できなかったのだ。
──他人に対して、どうしてそんなに真剣になれるのか。それが本気で、分からなかったのだ。
根本的に、俺は当時の彼女や周りの人のように、他人へ深い関心を持てないのだろう。
結果、彼女ができても最後にはいつも同じことを言われた。
『──本当に私のこと、好きなの?』
答えに詰まって、頬に痛烈な平手打ちをくらって、おしまい。それが俺の、恋愛。
何度訊ねられようと、何度叩かれようと。それでも俺には、どれだけ考えても分からない。【人を好きになる】ということは、いったいどういうことだろう?
……いや、意味は分かっている。
色々なアーティストが歌う、恋の歌。歌詞の意味も、なにを伝えたいのかも。意味や目的が、ぼんやりと分かっている。
──だけど、それが俺自身の中には無い。
決して、人間嫌いというわけではなかった。現に、幸三と一緒にいて『楽しい』と感じたことはある。騒がしかった幸三がいなくなって、若干だが『寂しい』と思えている気もするのだ。
だけど、そういうのと周りが提示する【好意】がイコールじゃないことくらいは、分かっているつもりだった。
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