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最終章【そんなに可愛がらないで】

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 手を繋いだまま、二人は喫茶店へと向かう。開店準備をするためだ。
 裏口の戸を開け、カナタたちは中へ入る。……すると、突然。


「「「──結婚おめでとう~っ!」」」


 パパパンッ、と。連続で鳴り響く、クラッカーの音。
 大きな声と音に祝福されながら中に入った二人は、それぞれの驚き方をしていた。


「えっ、あっ、えぇっ?」


 カナタたちを祝ったのは当然、いつものメンバー。マスターと、ウメと、リンだ。
 鳴らし終えたクラッカーを持ったまま笑う三人を見て驚きながらも、カナタの頬は徐々に赤みを増していった。


「あのっ、あっ。……ありがとう、ございます……っ」
「おぉ~っ! なんて愛い反応なのじゃ、感動じゃ! さすがカナタはいい反応をしてくれるのう~っ!」
「これは祝っているこっちも恥ずかしくなるねぇ! 見せつけてくれるじゃないかいっ!」
「よっ! リア充~っ! 羨ましくはないけど微笑ましいよぉ~っ!」


 真っ赤になりながらも感謝を伝えるカナタを見て、三人はご満悦。祝うことに対して見返りは求めていないが、やはり反応があると嬉しいものだ。三人とも、照れくささから小さくなっているカナタを見て笑顔だった。

 祝われた、もう一人。対する、ツカサはと言うと……。


「──うっざ」
「「「──祝われた人のセリフじゃないッ!」」」


 状況を理解すると同時に、心底不愉快気な様子で眉を寄せ始めた。
 嘆く三人を睨みながら、ツカサはカナタの腕を引く。


「ちょっと、なに三人してカナちゃんを見てるわけ? 今日のカナちゃんは俺だけのカナちゃんだよ? ……って言うか、未来永劫休まずカナちゃんは俺だけのカナちゃんなんだけど。無断で視界に入れないでよ、お前たち全員の目玉を抉るよ?」
「「「──新婚とは思えないセリフッ!」」」

「失礼だなぁ。ご祝儀に三人の両目を貰うだけじゃん」
「「「──なんて相変わらずなセリフッ!」」」


 仲良くツッコミを入れる三人と辛辣なツカサを、カナタは交互に見る。
 ツカサの発言は、本心だろう。不愉快そうに寄せている眉も、冷めた眼差しも本心からだ。

 ……だが、楽しそうに見える。カナタは相変わらずな旦那様を見上げて、クスクスと小さく笑い始めた。


「結婚をして『おめでとう』って言われるの、嬉しいですね。……ねっ、ツカサさん?」
「えっ。……うれ、しい、かな? 嬉しくは、ないと思うけど……」
「だけどツカサさん、ちょっと顔が赤いですよ?」
「えっ! それは絶対に見間違いだよ、カナちゃん!」


 カナタからの指摘をギョッとした様子で受け止めつつ、ツカサは自身の頬を触る。
 そんな微笑ましいやり取りをしている二人を見て、マスターはしみじみとした様子で何度も何度も首を上下に振り、噛み締めるように頷き始めた。


「なんと言うか、感慨深いのう。お主たちの出会いから見守っていたワシからすると、なんと言えばいいのか……込み上げるものがあるのう……っ」

「──変なマスター。あっ、いつもか」
「──キレそうなんじゃが」


 感動に打ち震えているマスターにも、容赦がない。……ある意味でマスターは、カナタとツカサを引き合わせてくれたキューピットであるというのに。

 すんっと冷めた態度でマスターを見るツカサを見て、カナタはまたしても笑みをこぼしてしまった。




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