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8章【そんなに惚れ直させないで】

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 カナタと両想いになって、数日後。


「んっ、あぁ、あっ! ツカサさん、ふか、い……っ!」


 ツカサはカナタの部屋で、カナタのことを犯していた。

 シーツの海に沈むカナタはいつだって煽情的で、愛らしい。


「あっ、んあっ、はっ! やっ、イく、イ──ふ、ぁあっ!」


 淫らに喘ぎ、はしたなく果てるその姿も、胸が締め付けられて仕方がない。

 ツカサに比べると小ぶりな性器すらもが、全てツカサの理想通りで。
 きっと【理想】という言葉は、カナタのために用意されたものなのだろうと。

 そう本気で思うほど、ツカサはカナタに傾倒していた。


「カナちゃん、可愛い……っ」


 可愛くて。
 大切で。
 絶対に、手放したくない。

 絶頂を迎えて放心状態のカナタを見て、ツカサは一言では言い表せない感情を抱く。

 カナタの笑顔が見たいのに、その先にあるものが自分ではないのならば、その笑顔をバラバラになるまで切り刻みたくなる。

 カナタの声を聞くだけで胸が弾むのに、その舌が別の誰かを呼ぶのならば、根を残さないほど完璧に引き千切りたくなった。

 手も足も、向かう先がツカサではないのならばへし折りたい。

 映すものはツカサだけでいい瞳も、他の誰かを映すために使われるのであれば、えぐり取って宝石のように大切にしてしまえたらと。

 ツカサ以外の音を求める飾りのような耳も、いっそそぎ落とした方が良いのではないかとも。

 どうしようもないほどの庇護欲と、抑えきれないほどの破壊欲も、ツカサにとってはどれも本物で。


「ツカサさん……っ。大好き、です……っ」


 だからこそツカサは、カナタの【好き】に手放しで【好き】を返せない。


「ありがとう、カナちゃん。世界で一番可愛いよ」


 きっとカナタは、こんな感情を抱いたことがないのだろう。
 そんな相手が口にする想いと、ツカサの想いが同じわけがない。

 それでもカナタは、自らを犯す男を見上げて、唇を尖らせる。


「……『好き』って、言ってほしいです」


 その言葉が、どれだけ清廉潔白で無垢なものかも知らずに。


「そうだね、ごめん。……好きだよ、カナちゃん」


 この言葉が、どれだけの狂気を内包しているかも知らずにだ。

 満足げに微笑むカナタの膝を、ツカサは持ち上げる。


「まだ足りない。カナちゃんが、もっと欲しい。……欲しいよ、カナちゃん」


 それは、性欲からくる言葉ではない。
 ましてや、カナタの世界にある【愛】からくる言葉でもなかった。

 ツカサは文字通り、カナタの全てが欲しいのだ。

 ──体も、心も、過去も現在も未来も、全て。

 しかし、カナタの世界にはツカサが告げる感情が言葉として存在しない。

 それをカナタは、自身が知る一番近い言葉で返すのだ。


「オレも、ツカサさんがほしい……っ。もっと、ほしいです……っ」


 交わっているようで、本当は違う。
 カナタとツカサは、一生交わることのできない存在だ。

 どれだけ愛し合い、どれだけ体を重ねても、二人は決してひとつにはなれない。

 そんなこと、ツカサは疾うの昔から気付いている。
 カナタと握手をしたあの日から、ツカサは知っているのだ。

 それでもツカサは、カナタのことが手放せない。
 今後どれだけ言葉を交わしても、カナタには理解されないと分かっているのに。

 ツカサはどうしたって、カナタを手放すことができないのだ。
 



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