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6章【そんなに嬉しそうにしないで】

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 どうしてカナタは今、脱衣所にツカサといるのか。


「俺、こうやって誰かとお風呂に入るの初めてなんだぁ。……あっ、幼少期は抜いてね?」


 いそいそと入浴の準備を進めるツカサには、どうしても訊けなかった。

 服を脱ぎ、すぽっと顔を出したツカサはカナタを見て、照れたように笑う。


「だから、カナちゃんが初めて」


 つまり、この行為こそが【特別】だと。ツカサはおそらく、カナタにそう言いたいのだろう。

 だがカナタは当然、そういう意味での【特別】を求めたわけではなかった。

 しかし、存外……。


「嬉しい、です。ツカサさんの、初めて」


 ツカサがカナタの【初めて】に固執する理由が、分かった気がした。

 不可解な状況には違いないが、ツカサが笑っている。
 ならばカナタは、それでいい気がしてきた。

 服に手をかけて、ツカサのように脱ごうとする。

 そこでピタリと、カナタは手を止めた。


「……お風呂、ですよね?」
「ウン。お風呂だよ」
「服、脱ぎますよね?」
「ウン。脱ぐよ」


 ズボンを脱ぎ捨てたツカサは、動きを止めるカナタに気付く。


「カナちゃん? どうかしたの?」


 あれよあれよという間に、カナタは浴室に来てしまった。
 だがよく考えると、入浴とは裸の付き合いということ。

 それはつまり、ツカサに裸を晒すということだ。


「いえ、その……っ」


 服に手をかけるが、どうしてもそれ以上動かせない。
 だが、意識をしているとは思われたくなかった。ゆえにカナタは、慌てて靴下を脱ぎ始める。

 しかし、どうしたってそれ以上のアクションが起こせない。

 下着姿のツカサは、ぎこちない動きのカナタを不思議そうに見ている。

 だがどうやら、ツカサはなにかに気付いたらしい。


「……あっ! 分かった!」


 そう言い、ツカサはカナタに近付いた。


「──カナちゃん、俺に脱がしてもらいたいんだねっ?」
「──えっ?」


 カナタが肯定や否定をする前に、ツカサはカナタの衣服に手をかける。


「いいよ、脱がしてあげる。甘えん坊なカナちゃんも可愛いねっ」
「いや、あのっ! そうじゃなくて──」
「そうじゃないの? ……もしかして逆に、俺のを脱がしたかった感じ? 後はパンツしかないんだけど、カナちゃんが脱がす?」
「パ……っ! けっ、結構ですっ!」


 今まで散々、数え切れないほどセックスをしてきたのだ。
 今さら裸を見られることに、ツカサは一切の感慨を抱いていないのだろう。


「はい、カナちゃん。バンザイして?」


 だとしても、カナタの考えは違った。


「ツカサさん、オレは、その……っ」


 どうしたって、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 けれどやはり、ツカサにはカナタの考えは届かないのだ。


「カナちゃんって、下から脱ぐ派? じゃあ、ズボンから下ろそうかっ」


 そう言って笑うツカサは、カナタの恥じらいに一切気付かない。

 ……結局カナタは、ツカサの手によって衣服を全て剥ぎ取られたのであった。
 



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