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第4章 BB

(前編)正午 上

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 処理課の中で、最も淫乱なのが……実は、BBだ。

 事務課と営業課の人間は、処理課一のセックス好きを、ショタだと思っている。それは、処理課の職員全員が知っていた。

 ――そして、それが間違いだということも……処理課の職員だけが、知っている。



 依頼を終えたばかりのBBは、事務課の事務所から出ると、通路にある窓から外を眺めた。
 夏の日差しが眩しくて、腰まで伸びた長い桔梗色の髪を揺らしながら、BBは目を細める。

 セックスに耽っていたBBは正午になったというのに、自分が昼飯を食べていないことを思い出し、外で何かを買ってこようと歩き出す。


(どいつもこいつも……大した差があらへんなぁ……)


 処理課の職員に付いているニックネームは、全てショタが決めた。
 【BB】というニックネーム……理由は、至って単純なものだ。


『ビッチすぎるんで、ビッチの二乗みたいな感じでいいんじゃないですか?』


 それが、BBの由来。
 外に向かう途中、BBは同じ課の職員を見掛け……声を掛ける。


「『まぐろ』ちゃんやん、こんにちは」


 BBが見掛けたのは、マグロだった。
 マグロはBBの呼び声に気付き、ゆっくりと近付く。

 マグロは必要以上――必要最低限も喋らない、寡黙な青年だ。表情も変えず、それでいて整った容姿のマグロは、まるで芸術品のように見える。

 そんなマグロの考えていることは、BBにはよく分からない。マグロの考えを察することができるのは、恐らく世界で一人……恋人の、ショタだけだろう。

 マグロはBBの前まで近付き、小さくお辞儀をする。BBもつられて、頭を下げてみた。

 ――しかし、会話が生まれない。

 もとより、BBにはゴリのようなコミュニケーション能力が無かった。物怖じしない性格ではあるが、人と関わるのが大好き……というわけでもない。

 つまり、今ここでマグロを引き留めたことには……何の意味も無かったのだ。
 しかし、引き留めたのはBBの方なのだから、会話を模索しなくてはいけない。妙な使命感が、BBを襲う。

 ――だが、意外にも口を開いたのは……マグロの方だった。


「BB、さん……あの、訊きたいことが……あるん、ですけど……っ」


 マグロの声を聞いたのは、久し振りだ。BBは驚いて、自分より若干背の高いマグロを見上げる。


「な、何……っ?」


 裏返りそうになりながらも、BBは言葉を紡ぐ。
 マグロはBBと目を合わせず、落ち着き無く視線を彷徨わせた。


「……ゴリ、課長と……依頼、とかで……その、セックス……したこと、ありますか?」
「……え?」


 マグロの問いは、意外なものだった。

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