未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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8章【未熟な社畜も伝えました】

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 二人を見送ってから、俺はカワイとゼロ太郎が待つ部屋に向かって歩いていた。

 不思議と、その歩みは遅い。草原君に言われた言葉と、ゼロ太郎が以前くれた言葉……。その重みを背負っていると思うと、どうしても軽やかな足取りにはなれなかった。

 それでも、部屋までの距離なんて大したことは無い。玄関扉を開いて、俺は二人が待っている部屋に戻った。


「ただいま、カワイ。ただいま、ゼロ太郎」
「ヒト、おかえり」
[おかえりなさいませ、主様]


 カワイは普段通りで、ゼロ太郎は……どうだろう。俺と草原君の会話はスマホ越しに聞いていたはずだから、ちょっと気まずいな。

 だけど、とにかくカワイはいつも通りだ。帰ってきた俺に近付き、尻尾をゆっくりと左右に振っている。


「兄、最後までメーワクかけた? たぶん、ヒトに変なこと言ったよね?」
「えっ? あー……いや、全然! そんなことないよっ!」

「ううん、絶対ウソ。兄はいつも空気が読めない変わり者」
「お兄さんに対する信頼の方向性が悲しすぎるよ」


 でも否定しきれない。だって、だってその通りだから!

 そんな中で不謹慎かもしれないけど、ちょっぴり立腹中なカワイを見て俺は、はたと気付く。

 そう言えば俺、カワイの本名はおろか、家族のことも全然知らなかったな。……なんてことに。

 その気付きが、俺の顔に出てしまったのかもしれない。俺の顔を見上げているカワイが、そっと眉を寄せたのだから。


「珍しい」
「え、なにが?」
「ヒトが、拗ねてる」


 ドキリ、と。胸の辺りが、嫌な感じに跳ねた。


「拗ね、てる……って、わけじゃないんだけど。えっと……」


 自分の頬を、そっと引っ張る。俺って、そんなに分かり易い男なのかな。ちょっと凹むと言うか、恥ずかしい。


「……カワイのお兄さんが草原君だって、知らなかったなぁって。カワイとも草原君とも、一緒にいる時間は結構あったのにさ……」


 言葉にすると、さらに情けない。こんなことで拗ねてしまうなんて、幼稚どころの話ではないじゃないか。

 気まずそうに視線を逸らす俺を見上げたまま、カワイは淡々と言葉を返す。


「うん。ボクも、ヒトの後輩? に、悪魔がいるって聞いてはいた。だけど、それが兄だって知らなかったよ」


 ……確かに。言われてみると、それもそうか。カワイの言葉が、スッと俺の耳に届いた。


「ボクも、拗ねた方がいい?」
「……敵わないなぁ」


 だから堪らず、カワイの頭を撫でてしまう。ゆっくりだったカワイの尻尾の動きが、少しだけ速くなった。


「でも、知らなくたって関係ないよ。あんな兄だから、関係ない」
「随分と冷たい……。カワイは草原君が嫌いなの?」

「嫌いじゃないし、尊敬できる部分もある。だけど『アイツってキミのお兄さんなの?』って言われると、肯定よりも先に否定したくなる。反射的に」
「いったい、カワイと草原君の間になにが……」


 一人っ子だから、カワイの複雑な弟心が分からないのかな。表情が硬くなったカワイを見つめながら俺は、頭を撫でる手の動きをほんの少しだけ速めてあげた。




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