未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
236 / 322
8章【未熟な社畜も伝えました】

12

しおりを挟む



 表情を変えずに、草原君は「プンプンでございます」と立腹を示した。


「僕の顔を見て叫ぶなんて、失礼でございますね」
「うっ。それもそう、だよな。悪かったよ、三日月」
「そうだよねっ。ごめんね、草原く──」

「──ですが、竹力様の怯えた表情は僕の性癖をくすぐったのでございました。感謝申し上げます、ありがとうございました」
「「──怖いッ!」」


 君には立腹する権利なんて無いよ! 怖いよっ、君は怖い!

 しかし、恐怖のせいで忘れてはいけない。いくら押せ押せモードな草原君でも、さすがに仕事をボイコットして月君に会いに来るわけがないのだ。


「えっと、草原君? 今日はいったい、どういったご用事で?」
「敬語を遣われている件に対して気にはなるところではございますが、一先ず置いておくでございますね」


 そう言い、草原君は紙の束が詰め込まれたファイルを月君に差し出した。


「先日、こちらの資料をお求めのご様子でございましたので」
「えっ? もしかして、わざわざ探してくれたのか?」
「書庫に用事がございましたので」
「みっ、三日月……!」


 草原君ごめんね! ヤッパリ、君にはさっきの俺たちに対して立腹する権利があるよ! メチャメチャいい子じゃないか!

 どういう話があったのかは分からないけど、どうやら草原君は月君が探していた資料を見つけてくれたらしい。ファイルを見るに、なかなかに古い資料だ。きっと、書庫の奥深いところにしまってあったことだろう。

 しかし、やはり月君は草原君のことを嫌っているわけではないみたいだ。資料云々といった会話をするくらいには、日常会話と言うか業務会話? をしているみたいだし……。


「お役に立てたのならば、光栄でございます」
「あぁ! ありがとう、三日月!」
「いえ、気になさる必要はございませんよ」


 こう見ると、二人は普通に仲の良い同期──。


「──それでは、報酬は先日お約束した【夜を共に過ごす、意味深】でよろしくお願いいたしますでございます」

「──えっ。……え、月君、えっ?」
「──コイツの冗談だってどうして分からないんですかセンパイ!」


 ビッ、ビックリしたぁ~っ! てっきり、月君が草原君を買収したのかとばかり! だって草原君、嘘を吐いたような顔じゃなかったんだもん!

 草原君の手のひらの上でコロコロされた後、事務所に時計のチャイムが響いた。お昼休憩の開始を伝える音だ。


「おや、休憩時間でございますね。それでは、報酬は【僕と共にお昼を】は、どうでございましょうか?」
「あー、うん。変なこと言ったりしたりしないなら、いいぞ?」

「冤罪でございます。まるで僕が竹力様にそういった言動を取ったことがあるかのような物言いではございませんか」
「あるから言ってんだよ」


 今の草原君が取った手法は、前になにかで見たことあるなぁ。確か【ドア・イン・ザ・フェイス】っていう、心理学を用いた交渉テクニックだ。先に難題を断らせて、次にする本命の要求を通しやすくする~……っていう、返報性の心理を利用した交渉術。

 つまり、草原君の本命は【月君との昼食】というわけで。ヤッパリこの子、只者じゃないよ。

 などと、草原君のテクニックに感心していると──。


「──そう言えば追着様は、あれからまだ告白をなさっていないのでございますか?」
「──ブゥーッ!」


 真顔で爆弾を投下するのはなんでなのかなこの悪魔君は~ッ!

 ヤッパリ只者じゃない! 只者じゃないよ! 盛大に動揺しながら、俺は真顔でクールな美青年悪魔君のポテンシャルを呪ってしまった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【本編完結】君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。 そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。 しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。 猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。 
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。 契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。 だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実 「君を守るためなら、俺は何でもする」 これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は? 猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

処理中です...