189 / 212
7章【未熟な悪魔は伝えました】
1
しおりを挟む完全に、油断していた。そう後悔したところで、遅いのかもしれない。
目が覚めると同時、俺の本日一発目の思考が確定。言うまでもなく【後悔】だ。
瞼を上げて、ぼんやりと部屋を眺める。いつも通りの室内が、こんな時はほんの少し恨めしく思えたりするから、困ったものだ。
まさに、最悪の目覚め。だけどこんな目覚めが、実は初めてではない。……だからこそ、俺の気分は最悪だ。
そんなこんなで気分の悪い起床を果たすと、頭上からポンと音が響く。
[主様、おはようございます。お体の具合は最悪、まさに絶不調ですね]
「おはよう、ゼロ太郎。せめて会話にジャブを入れてくれないかな」
[失礼いたしました。……こほんっ。季節はどんどん秋めいてまいりましたね。せっかくですし、お花見の次はカワイ君と紅葉狩りなんてどうでしょう? ところで、主様は紅葉を眺めることをどうして【狩り】と呼ぶかご存知ですか?]
「ごめん、俺が悪かった。その話は、また今度」
朝はいつだって気怠いけど、それでもいつも以上に重たく感じる体を起こして、頭を掻く。するともう一度、ゼロ太郎の声が降ってきた。
[──いつもの、ですよね]
咄嗟に、返事ができない。俺は頭から手を下ろして、俯いた。
「ゼロ太郎は本当に、ド直球で核心を突いてくるね。そういうところ、結構好きだよ」
[ありがとう存じます。ですが、この期に及んで私に隠し事をなさろうとする主様を、私は好ましく思いません]
相変わらず、辛辣だ。それでいて、物言いがストレート。でも、そんな応対に安堵しているのも事実。なんだかんだで俺は、こういうゼロ太郎が好きなのだ。
俺はベッドに座って俯いたまま、ゼロ太郎との会話を続行する。
「カワイは?」
[いつも通り、朝食と昼食用のお弁当を準備しています]
「そっか。今日も可愛いなら本望だよ」
[寝言は寝ながら放つ言葉ですよ]
俺は意味もなく床を見つめたまま、ゼロ太郎にポツリと疑問を投げた。
「ねぇ、ゼロ太郎。これ、カワイに隠せると思う?」
[無理かと問われれば無理ですし、可能かと問われれば無理ですね]
「ハッキリ『無理』って言ってよ……」
と言うことは、覚悟を決めよう。ゼロ太郎がそう言っているし、俺もそう思っているからね。俺は観念して、ベッドから降りた。
……それは、いつも突然やって来る。だけど、今回はある意味【予兆】なのかもしれない。なぜならこうして、自力ですんなりと立ち上がれるのだから。まだ良い方だろう。
さて、気合いを入れよう。愛するカワイにかけられる心配を、少しでも減らしたいからね。俺は自分の頬を叩いた後、寝室から移動を始めた。
「おはよう、カワイ。起きて早速で申し訳ないんだけど、朝ご飯ってできてるかな?」
「おはよう、ヒト。できてるよ」
今日も可愛いカワイを見て、ちょっと元気になってきたぞ。俺は食卓テーブルに近寄って、すぐに椅子へと腰を下ろす。
カワイは朝食を並べながら、不思議そうに俺を見た。
「珍しいね。ヒトが自分から、朝ご飯を食べたがるの」
「あー、うぅーん。……ちょっとね、うん」
配膳も手伝えないとは、情けない。俺は曖昧な返事をした後、カワイとゼロ太郎お手製の朝食を食べ始めた。
……それから、数分後。
「ごめん、カワイ。白ご飯のおかわりってある?」
「えっ? ……あ、ごめんね。今ので、全部」
だよねぇ~。俺は「気にしないで」と言って、残ったオカズを平らげた。
カワイは俺の正面に座って、ほんのりと不可解そうな表情を浮かべる。
「ヒトが朝からこんなに食欲あるなんて、想定できなかった。ホントに今日は、珍しいね」
「食欲、と言えば……まぁ、食欲なのかな」
はてさて、どう説明したものか。悩んでいると、不意に。
[──カワイ君。主様は時折、悪魔として大量の魔力が必要になるのです。それをこうして、食物から摂取するときがあるのですよ]
ポンと、低音ボイスのアシストが入った。
25
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる