182 / 212
6.5章【未熟な悪魔は支えるだけです(カワイ視点)】
5
しおりを挟むもっと駄々をこねるかと思ってたけど、意外。仕事モードのヒトは、静かだった。
ボクが声を掛けたら、返事はくれる。例えば『掃除機かけてもいい?』とか。それには、返事をくれた。
でも、ボクが声を掛けない限りは黙ったまま。ヒトは黙々と仕事をしている。
今さらながらにようやく、ゼロタローが言っていた意味を理解。確かに少し、ギャップがあるかも。仕事を続けるヒトの様子を時々確認しつつ、ボクは考える。
オンとオフの、ギャップ。確かにこれは、会社でも頼られそう。完全にイメージと空想だけの妄想だけど、ゼロタローの言い分に納得。
そこで、ボクはふと気付く。いつの間にか、お昼が近付いていたみたい。ボクは掃除をキリのいいところで終わらせてから、キッチンに向かった。
「ヒトの作業を妨げないような料理を作りたい」
[カワイ君ならそう言ってくださると思っておりました]
始まる、ボクとゼロタローの作戦会議。ボクもゼロタローもヒトが大好きだから、考えは一致している。つまり、話は早い。
冷蔵庫の中を確認して、打ち合わせ。作るものが決まった後は、ゼロタローに教わりながら調理開始。……ちなみにボクは結構、この時間が好き。
ということで、昼を目掛けて淡々と調理。その間も、ヒトは仕事に集中していたらしい。
でも、その方が好都合。気分は、ちょっとしたサプライズ。
昼から少し時間が過ぎた頃、ボクとゼロタローは昼食を完成させた。だからすぐに、ボクは部屋で作業をするヒトに近付いた。
「ヒト、ご飯にしよう」
[一度休憩といたしましょう、主様。その方が、結果的には作業効率が下がりませんから]
ノックをしてから顔を覗かせると、ヒトはボクを振り返る。それから数回瞬きをして、時計を確認した。
「えっ、もうお昼? ……あちゃ~、気付かなかった。ありがとう、二人共」
ヒトは体を伸ばしながら、お礼を言う。伸ばした拍子に体がパキパキッて音を鳴らしているけど、それは大丈夫なのかな。
「さっきから『いい匂いがするなぁ』とは思ってたけど、二人が料理してくれてたからだったんだね。折角家にいるのに手伝いもせずにごめんね。……でも、今日のご飯はなにかなぁってワクワクしていますっ!」
「手伝いは、別にいい。それよりも、素直に喜んでくれて嬉しい」
[主様の場合【手伝い】ではなく【妨害】になり得ますからね]
「ゼロ太郎さんや、優しさはもう少し分かり易く頼むよ」
ゼロタローは素直じゃない。ヒトが律儀にツッコミを入れる程度には。
ヒトはボクたちに笑顔を向けてくれたけど、すぐに眉が困ったように下がった。
「あー、でも……もうちょっと後でもいいかな? 今、作業のキリが悪くてさ」
「うん、大丈夫。そんなこともあろうかと……」
「あれ? カワイ?」
一度、部屋から退散。それからすぐに、ボクはキッチンから料理を運んで戻ってくる。
ジャンッ。運んできた料理を、ヒトの前に用意した。
「今日のご飯は、一口カツサンド。ボクがヒトの口に入れるから、ヒトは仕事に集中できるでしょ?」
本音を言えばしっかり休んでほしいけど、出来立ての料理を食べてほしいのも本音。だから、仕事のキリが良くなるまではこの方法で食べてもらおう。
そういうつもりで提案した食事方法だったけど、ヒトはとても難しい顔をした。
「……カワイ」
真顔で、ボクを見ている。かと思いきや、カツサンドを乗せた食器をヒトがヒョイッと回収。
作業机の上に食器を置いた後、フリーになったボクの手をヒトが握った。そして……。
「──俺たち、今すぐ結婚しよっか」
「──うん、する」
[──作業が止まっていますよ、お二人様]
ヒトを喜ばせるはずが、ボクの方がより一層喜んでしまったみたい。ヒトの言葉に、ボクは尻尾を振ってしまった。
15
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
【やさしいケダモノ】-大好きな親友の告白を断れなくてOKしたら、溺愛されてほんとの恋になっていくお話-
悠里
BL
モテモテの親友の、愛の告白を断り切れずに、OKしてしまった。
だって、親友の事は大好きだったから。
でもオレ、ほんとは男と恋人なんて嫌。
嫌なんだけど……溺愛されてると……?
第12回BL大賞にエントリーしています。
楽しんで頂けて、応援頂けたら嬉しいです…✨
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる