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6.5章【未熟な悪魔は支えるだけです(カワイ視点)】
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しおりを挟む着替えを終えたヒトは、ヤッパリいつも通り。
仕事から解放されたのがよっぽど嬉しいのか、ゴキゲンに鼻歌を歌っている。なんの歌かは分からないけど、ヒトが上機嫌なのはバッチリ伝わってくるから、ボクも嬉しい。
ヒトはルンルンした様子のまま、冷蔵庫をパカッと開けた。そこで珍しく、ヒトは冷蔵庫の中身を注視したらしい。
「あれっ? 今日は冷蔵庫の中がやけに賑やかだね? 明日から台風でも来るの?」
タイフー? なんだろう、それ。来られると困るお客さんかな。
よく分からない単語に疑問符を浮かべていると、ゼロタローがボクの代わりにヒトの質問に答えてくれた。
[いえ。本日はスーパーで特売品が多かったので、数日分の献立を考えた後で買い出しに向かったのです]
「あぁ、なるほど! いつもありがとうね、二人共~っ」
そう言って、ヒトは冷蔵庫から液体が入ったボトルを取り出す。
刹那、ボクはヒトの腕をガシッと掴んだ。
「ヒト、待って」
「ん? なぁに? 甘えたさんかな?」
「それは否定しない。……じゃなくて。それはお茶じゃなくて、だし汁」
「だし汁」
ヒトはボクの頭を撫でた後、取り出したばかりのボトルを冷蔵庫の中にそっと戻す。それから別のボトルを指さしたから、ボクは頷く。ヒトが大変な目に遭う前に止められて良かった。
ボクの頭を撫でながら、ヒトは笑う。
「悪魔と人工知能がどうかは分からないけど、人間は【お得】に弱いんだよねぇ」
この話題によって、ヒトがお茶とだし汁を間違えたのはなかったことになった。なんだか、今の一瞬がスッパリ切り取られたみたい。別にいいけど。
それにしても。人間は、お得に弱い。……そっか。
ボクは冷蔵庫を開けて、お菓子の箱を取り出す。箱に貼ってある半額シールを剥がして、そのままボクのほっぺにペタッと貼って……。
「カワイ? なにしてるの?」
「お得になった。……ヒトもお得、好き?」
「好きだけど、シールを顔に貼ったら肌が荒れちゃうよ。後で痒くなるかもしれないから、剥がそうね?」
「うん」
悪魔はシール程度じゃ肌荒れなんかしないのに。……ヒト、優しい。
「あと、割り引くならカワイ本体じゃなくてさ。例えば、カワイが履いているその使用済みスリッパとか──」
[──主様の人生を割り引きましょうか?]
「──どういうツッコミっ? 理解に苦しむ!」
ヒトの優しさにドキドキしていたら、ゼロタローとヒトが楽しそうに話しているみたい。仲良しなのはいいことだから、ボクはヒトを見つめた。
すると、ヒトはボクのほっぺから剥がしたシールを見て、眉を寄せているみたい。
「ところで、この値引きシールはどこから?」
「スーパーで値引きされたチョコに貼ってあった」
「へぇ? だけど【半額】って、随分と思い切った値引きだね? ちなみに、どんなチョコ?」
「パイナップル抹茶チーズ味」
「……はい?」
「パイナップル抹茶チーズ味」
ヒトは片手にコップ、片手に半額シールを持ったまま呆然とする。
「なんだ、その味は……? トロピカルなの、和風なの、洋風なの? カワイ、よくそんなワケ分からない味の食べ物に挑戦したね……」
「ヒトも食べる?」
「いや、ごめん、俺はそういう冒険、まだできないや」
そっか。ヒト、甘い物好きじゃないもんね。……でも、面白そうな味だから共有したかったな。
なんて考えていたら突然、ヒトがアワアワと慌て始めた。
「あぁっ、カワイがシュンとしている! いっ、いやっ、えっと! ……ヤッパリ、一個だけ貰おうかなぁ!」
「っ! うん、あげるっ」
「うぅっ、目に見えて喜んだぞ! カワイは可愛いなぁ!」
ヒトも気になるよね、パイナップル抹茶チーズ味。食後の楽しみにしようね。
ボクが内心で喜んでいると、ヒトは半額シールを握り締めて「守りたい、この天使……!」と呟いた気がするけど……ボクは悪魔だから、ヒトの言っている意味が分からなかった。
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