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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む──やってしまった。これが翌朝の、俺の最初の思考だ。
取り返しがつかないほどに、やってしまったのだ。これはもう、言い逃れは不可。どう取り繕っても、通報まっしぐら。
いや、ひとつ訂正。今はもう朝ではない。時計の長針と短針が頂点で重なり合った後の時間だ。つまり、昼過ぎ。
俺はベッドの上で頭を抱え、大いなる罪悪感と申し訳なさも抱き締める。
「ごめん、ゼロ太郎。どうか俺が通報された後、ゼロ太郎の中の今までの記録を消すか消さないかは管理人さんと相談して決めてほしい。あと、俺の財産はカワイと折半してくれないかな。カワイとゼロ太郎に対する慰謝料になれば幸いだよ」
[まさか自ら通報について口にするとは、重症ですね]
さすがに、ゼロ太郎もいつものように『通報します』とは言えないらしい。それくらい、俺は取り返しがつかない大罪を犯してしまったのだから。
そこで、寝室をノックする音が聞こえた。相手が誰かって? そんなの、一人しかいないじゃないか。
「ヒト、そろそろ起きた? ……ヒト? どうして俯いているの?」
「──やましいからに決まっているでしょうが!」
「──そっか。やましいなら、仕方ないね」
あっ、受け入れられた。うぅっ、カワイ、ごめんねぇ~っ。
俺はベッドの上でモゾモゾと蠢き、上体を起こす。それから、カワイに向かって頭を下げた。土下座である。
カワイはそんな俺を『俯いている』と形容したのだが、そこはなんだっていいのかもしれない。
「あのね、ヒト。俯いたままでも、やましいままでもいいから、聴いてほしい」
カワイはおそらくベッドに座ってから、俺にそう言ったのだから。
土下座を続ける俺に、カワイは言葉を続ける。
「ヒトに避けられて、すごく悲しかった。理由が分からなくて、すごく不安だった」
「うん」
「ヒトに嫌われたのかと思って、悲しかった。ヒトにもう触ってもらえないのかと思って、悲しかった」
「……うん」
「だけど昨日、ヒトの気持ちが分かって嬉しかった」
「うん──……えっ?」
思わず、顔を上げてしまう。反射行動だ。
すると意外にも、カワイは俺の目の前に座っていた。
「ヒトがボクを性の対象として見てくれて、嬉しかった。だから、下心があるヒトに触られたら、ボクはもっと嬉しいよ」
微笑み、だ。カワイは今、俺に向かって微笑みを浮かべている。
「……怒って、ないの? 俺、カワイのことを襲ったのに?」
「同意の上だから、怒る理由なんてないよ。ゼロタローにも、そう説明した」
「アフターケア的な気遣いが行き届いている──じゃなくて! だって俺、最低じゃないっ? カワイの信頼を利用して食い物にしてるとか、そんなふうに思わないのっ?」
「どうして? ヒトはそんな男じゃないって、ボクは知ってるよ」
カワイはほんのりと目を丸くし、驚いている様子だ。本気で、俺の言っている意味が分かっていないらしい。
それからカワイは、俺を責めない理由を告げた。
「ヒトが自分を責めるなら、真に責められるべきはボクだよ。ヒトが罪悪感を抱いて縮こまっているのに、ボクは昨日の夜がとても嬉しかったんだから」
続けて、カワイは言葉を重ねる。小さな微笑みを、俺だけに向けながら。
「──またシようね、ヒト。それで、もっとボクにハレンチな気持ちを抱いてね。ボクはそれが、すごく嬉しいから」
嗚呼、この子は……。俺は思わず、考えてしまう。
この子は本当に、悪魔なのかもしれない。顔に熱が集まっていると自覚しながら、俺はまるで逃避するかのように、そんなことを考えた。
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