172 / 212
6章【未熟な社畜は悩みました】
34
しおりを挟むなんだ、この展開は。なんなんだよ、この展開はよ。
……えっ、夢? 夢なのか? いやいやっ、これで夢オチとか、ちょっと笑えない。
だけどこれが夢じゃないなら、どういうことだ? 考えて、すぐに理解した。
──そうか。カワイは、俺が言っている言葉の意味を理解していないんだ。……と。
天然で鈍感で、純粋で無垢。カワイのそんなところが、俺は大好きだ。
だけど、今回に限っては許容できない。まるで、カワイが俺のことを【そういった対象】として全く意識していないように感じたからだ。
だから俺は、強引な方法に出てしまった。
「──ゼロ太郎、命令だよ。スリープモードになって」
[──かしこまりました]
カワイから、退路を断つ。俺はゼロ太郎に、命令した。
どこか楽観的な俺が『強制しちゃったなぁ。スリープモードを解除した後で、ゼロ太郎には怒られそうだなぁ』なんて考えているけど、それはそれ。申し訳ないけど、今はゼロ太郎のことを頭の片隅辺りに置いておこう。
俺は立ち上がり、カワイに近付く。それから、カワイの顔をジッと見つめた。
「カワイ、さっきの言葉だけど。あれって、本気で言ってる?」
「うん。本気」
「今、聞いていたよね。俺がゼロ太郎に『スリープモード』って命令したの。つまり、俺がカワイになにをしても、ゼロ太郎は守ってくれないってことだよ?」
「うん。分かってる」
たぶん、分かってなんかいない。そんなところも可愛いけど、今はもう少し分かってほしいと思う。
俺は強引に、カワイの腕を掴んだ。驚くカワイの反応には無視をして、そのまま寝室へとカワイを引っ張る。
寝室に着くや否や、俺はベッドにカワイを押し倒した。
「これでもカワイは、まだ『分かってる』なんて言えるの? 俺に触れられてもいいって、そう思えるの?」
さすがに、カワイでもそろそろ事の重大さに気付いてくれたはずだ。ベッドに押し倒されて、腕を押さえ込まれているのだから。
多少、罪悪感はある。だけどもっと、脅しておかないと。二度と、カワイが誤解をしてしまわないように。
「──俺の言っている『触れる』って、こういうことだよ。俺はカワイと、こういうことがしたいんだよ」
「──っ」
俺はカワイの脚の間に、膝を割り込ませる。それから、カワイの下半身を膝で刺激した。
カワイが一瞬、息を呑む。ピクリと体を震わせて、驚きを露わにした。
こう、なんて言うのだろう。いざ警戒されると、自分で蒔いた種と言っても精神的にこう、クるものがある。……カワイに怯えられるのは、ヤッパリ悲しい。
だけど、早い段階でカワイに警戒してもらうのは必要なことだったのかもしれない。むしろ、今からだと全然遅いくらいで──。
「──うん、いいよ」
カワイの、声。言葉を受けて、俺はハッとした。
カワイが、真っ直ぐと見つめている。カワイに覆いかぶさる俺を、あの綺麗な瞳が、真っ直ぐと。
「──ヒトになら、なにをされてもイヤじゃない」
カワイの言葉を受けて、カワイの腕を押さえ込んでいる俺の手は震えたことだろう。なぜなら俺は今、驚いたのだから。
……揺らいで、しまう。カワイにそんなことを言われたら、俺は……。
「……本気に、しちゃうよ?」
「うん。本気にして」
「本当に俺、カワイに手を出しちゃうよ? 破廉恥なこと、しちゃうよ?」
「うん」
するりと、カワイの腕が俺の手から逃れる。その手はすぐに、俺の服の裾を掴んだ。
「──ボクに手、出して」
ここまでされているのに、気付かないわけがない。カワイは、分かっているはずだ。……分かっている、はず。
だから、好きな子にこんなことを言われたら、もう。
「……うん。分かったよ」
もう俺は、止めてあげられない。
15
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる