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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む始めから、クライマックス。俺はペタリと座り込んだまま、苦し紛れの言葉を返す。
「そっ、そうかなっ? 俺、今まで通りカワイにゾッコンで家庭能力ゼロの駄目な男だよっ?」
「ヒトがボクにゾッコンで家庭能力ゼロのダメな男なのは、そう。でも、そういうことじゃない。挙動が変わった」
あー、うん、しっかり肯定はするんだ。これも、ゼロ太郎の仕込みかなぁ。
……なんて、誤魔化している場合ではない。俺は姿勢を正し、リビングのフローリング上で正座をする。
それから俺は、カワイに頭を下げた。
「ごめん、カワイ。ごめんなさい。カワイの言う通り、ここ最近の俺はカワイに触らないようにしてた。……だけど、言い訳が許されるのなら言わせてほしい。それには、俺なりの理由があるんだよ」
「じゃあ、教えて。ヒトの言う『理由』ってなに?」
「っ。……カワイを、傷付けちゃうから。カワイに、嫌な思いをさせちゃうから。だから俺は、カワイに触れないんだよ」
「それが理由なら、最近のヒトが選んだ行動は間違い。避けられているみたいで、イヤだった。ヒトが手を引っ込める度に、心が傷付いたよ。だって、だってボク……」
言葉を区切ったカワイが、気になって。だから俺は、下げていた頭を上げてしまった。
その先で──。
「──ヒトには、いつだって触ってほしいから。ヒトにもっと、触れられたいから」
──カワイが顔を赤らめているなんて、欠片も想定しないまま。
駄目だよ、そんな顔。俺は膝に置いた両手を、拳を作るかのようにギュッと握り締める。
こうして手の平に爪を食い込ませ、痛みを与えないといけない気がした。……勘違いや誤解をしてしまわないよう、現実を見るために。
「カワイは、分かってないよ。知らないから、そう言えるんだ。俺がどんな気持ちでカワイを見ているか、知らないからそう言えちゃうんだよ」
「うん、知らない。だって、言われてないから。ヒトがなにも言ってくれないなら、ボクはこのままボクの気持ちを主張し続けるよ」
「だから、それは駄目なんだよ。……駄目、なんだよ」
「そんな抽象的なことを言われても、ボクには分からない。だから、ハッキリ言ってほしい」
いつの間にか俯かせていた顔を、しっかりと上げる。真剣な目で俺を見るカワイと、対等に向き合うために。
そして──。
「──俺がカワイに向けてるのは、やましい感情だから!」
──爆弾発言をぶち込むために!
……って! オイオイオイ! なんでっ? なんでこんなこと言ったっ? おかしいだろっ、俺ーッ!
そこで、今さらながらに思い出す。『そう言えば俺、アルコールをメチャメチャに摂取したばかりだ』と。
つまりそれが、どういうことか。思考回路から【冷静】が奪われ、答えまでの最短ルートしか突き進めないのだ。
カワイが傷付き、悲しんでいる。この事実を受けた俺は『どうにかしないと』と慌てふためき、それでいてどうにもできないもどかしさを前に、つい躍起になってしまったのだ。
なんて、今さらすぎる俺の気付きをカワイは当然知らない。キョトンと目を丸くし、向き合う俺を不思議そうに見つめていた。
「……やま、しい? それって、ハレンチってこと?」
「いやっ、ちょっ! 随分とハッキリ言うねっ? まぁでも、はい。そういうこと、です」
終わったよ、俺の人生。これには、さすがの俺も弁明の余地が無い。つまり? そう。ゼロ太郎が通報をすること待ったナシということで──。
「──それとボクに触らないことと、どういう因果関係があるの?」
「──はいっ?」
投獄される未来を想像して絶望していた矢先に、カワイはコテンと小首を傾げた。
それからカワイは、またしても告げたのだ。
「──ボクは、いいよ。ヒトに、ハレンチな触り方をされても」
俺を勘違いさせる、トンデモ発言を。
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