未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
169 / 212
6章【未熟な社畜は悩みました】

31

しおりを挟む



 そんなこんなで始まった、三人での飲み会。

 先ずは各々の飲み物を頼み、それから料理もいくつか注文。俺たちは無事に、飲み会のスタートを切った。


「──本日は竹力様を持ち帰る覚悟でございますので、お覚悟を」
「──独りで帰れ」


 と同時に、危うく閉幕するところじゃないか!

 ちょっとおしぼりで手を拭いていただけで、どうしてっ? 俺はすぐに草原君へと詰め寄る。


「待って待って待って! 草原君! ここはせめて、先ずは【同期】から【親友】くらいまで友好度を高めるとかさ! もうちょっと段階を踏もうよ!」
「僕と竹力様に残っている段階はセックスだけでございますが?」

「……えっ、そうなのっ?」
「違いますよ! 一瞬で丸め込まれないでくださいセンパイ!」


 じゃあ、なに? 草原君は今、超真顔で嘘を吐いたってこと? 末恐ろしいなこの悪魔君!

 届いたばかりのビールが入ったジョッキを、形式的に乾杯を交わしてからグイッと一口。俺は冷えたビールをキンキンと楽しんだ後で再度、草原君に顔を向けた。


「あのね、草原君。たぶん、草原君のド直球すぎるストレート剛速球が月君は受け止められないんだよ」
「これだけ素晴らしい体格をしているのに、僕如きのボールが受け止められないのでございますか?」

「なっ! 表に出ろ、三日月! 三日月とのキャッチボールでオレが負けるワケないだろうが!」
「では『竹力様は僕からの剛速球を受け止めてくださる』という解釈でよろしいでございましょうか?」

「──そう言ってるだろ!」
「──落ち着いて月君! 話が食い違ってるよ!」


 なにこの悪魔君、怖い! 目的までのルートを自ら開拓しているよ! たぶん草原君は『道が無いのなら自分で作れば良いのでございますよ』とか言って、行き止まりの壁をドッカンドッカン壊していくタイプだ!

 立ち上がった月君の腕を掴み、なんとか座り直させる。それから俺はビールをグビグビッと飲んだ後で、草原君を見た。


「えぇっと、草原君? 例えば、そうだなぁ……。月君へのアプローチの方向性を変えてみるのはどうかな?」
「アプローチの、方向性?」

「こう、グイグイ押すだけじゃなくてさ? 例えばほらっ、それとない優しさを見せてみるとか?」
「それとない、優しさ。……善意、ということでございますね」


 おっ、意外と素直な反応。草原君は顎に指を添えて、黙り込んだ。

 うぅ~ん。ヤッパリ、黙っていると絵になるなぁ。考え込んでいる草原君を見て、月君も「ずっとこうならいいんだけどな……」って言っているし。

 やがて、草原君はなにかが閃いたらしい。伏せていたまつ毛を上げて、草原君は月君を見つめた。


「竹力様」
「な、なんだよ?」


 なんて真剣な表情だろう。それでいて、整った顔だ。タジタジになる月君の気持ちも分かる。

 だけど、俺たちは忘れていた。


「──消したい記憶はございますか?」
「──怖いッ!」


 草原君は、いつも真顔だったと。

 ゾゾッと身を震わせる月君を見て、草原君はポンと自らの手を打つ。こちらも変わらず、普段通りの真顔で。


「なるほど。それでは【恐怖心そのもの】を抹消する、ということでよろしいでございましょうか?」
「怖い怖い! マジで怖い!」

「お任せを。こう見えて僕は、悪魔の学校を首席で卒業するほどのエリートでございます。魔術の扱いに長けているので、不要な感情だけを削ぐことなど朝飯ならぬ飲み会前でございますよ」
「三日月のそういうところが苦手なんだよ! うわぁ~んッ、センパイ~ッ!」


 なんだか、本格的に【善意】というものをはき違えている気がする。とてつもない勢いで飛びついてきた月君に見事潰されながら、俺は頭を抱えてしまう。

 せめて、せめて二人の価値観を擦り合わせるだけでも……! 上体を起こした後、俺は残っていたビールを一気に飲み干した。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】 貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。 じれじれ風味でコミカル。 9万字前後で完結予定。 ↓この作品は下記作品の改稿版です↓ 【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994 主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。 その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...